2021年2月16日火曜日

Visium空間解析始めませんか?(パート2)

 ここではもう一度、Visium空間解析のおさらいをしましょう!

Visiumスライドの説明「Visium空間的遺伝子 発現テクノロジー」カタログより

Visiumの遺伝子発現スライドにはキャプチャーエリアという、一辺は6.5mmからなる正方形のエリアが4つある。この中には5000個のスポットがあり、各スポットは直径55μmで、隣り合うスポットの中心間の距離は100μmである。

さて、この直径55μm(子供の髪の毛の太さがこのくらいらしい)のスポットに、数百万本のDNAオリゴが並んでいる。このオリゴはガラススライド側からリード1(後のシーケンスに使う)、空間バーコード、UMI、一番外側がPoly (dT)からなる。Poly (dT)オリゴがメッセンジャーRNAのPolyAを捉えることになるのだ。

正方形のキャプチャーエリアの上に、組織切片を載せて、酵素処理を行い、細胞に穴を開ける。すると、細胞内に含まれていたメッセンジャーRNAがスライドの上に落ちてくる。

落ちてきたmRNAは、先ほどのオリゴの先端のPoly (dT)によって捉えられ、その後逆転写によって cDNAが作られる。逆転写がmRNAの5’側に達したら追加でCCCオリゴを追加する、特別な酵素を用いていて、次に作られる2ndストランドの鎖はGGGがついたプライマーによって行われる。そうすると2ndストランドの鎖はUMI、空間バーコード、リード1の部分まで作られる。

ここでできるcDNAは、cDNAの全長+UMI+空間バーコード+リード1である。←ここ重要!

その後cDNAプラスアルファの配列は酵素処理されて断片化されて、NGSライブラリーが作られる。転写物の方はポリAに近い方がショートリードで読まれる。なのでこれは3’発現解析とも言える。バーコードの方はUMI+空間バーコード+リード1が読まれる。ここでバーコードとは何か?

UMI:スポット内のオリゴには異なる配列が設計されている。同じスポットには同じUMI配列は、無い。なので 、同じスポット内に限れば、発現遺伝子の転写産物には一種類のUMI配列がついていることになる。例えば後にPCRで増やす時、配列が増えやすい増えにくいに限らず、同じUMIを持っていれば元は同じ転写産物クローンだったということになる。発現値を測るのに適切な方法はUMIを数えれば良い。RPKMとかのノーマライズは必要ない。と言える。

空間バーコード:これはスポット内のオリゴには同じ配列が設計されている。しかし、異なるスポットには異なるユニークなオリゴが設計されている。つまり、空間バーコードを読むことによって、どのスポット由来の転写産物だったのかがわかる。キャプチャーエリアの正方形には5000のスポットがあるので、5000個の住所がある。この住所が書かれたのが空間バーコードだと思って良い。

UMIと空間バーコード:さて、スライドに落ちてきたmRNAは、 cDNAにされるときにこのUMIと空間バーコードが付けられる。この組み合わせを読むことで、どの遺伝子が(cDNA)、どれくらい(発現量・UMI)どこで(アドレス・空間バーコード)発現していたのか、がわかるようになるのだ! すごい!


とまあ、文章にすると結構わかりにくいかもしれない。実際言葉で言っても伝わらないこともある。図にしてプレゼンするのが一番なのかなー

さてさて、現在(2021年2月)は、新鮮組織切片からスタートする方法である。しかしこれもFFPEからスタートできるキットが今年出れば、実験の可能性も大きく広がると思う。

現在でも、メインはHE染色だが免疫蛍光染色にも対応しているので、遺伝子発現と同時にタンパク質発現の局在を捉えることができる。


ところで、「cDNAの全長+UMI+空間バーコード+リード1」ができると途中で書いたけど、これはつまり、読もうと思えばショートリードではなく、ロングリードで読めば、全長 cDNAも読めてしまうということ! 私が3年前まで全力で応援していたあのロングリードですよ。と言ってもまだショートリードがメインです。論文でもショートリードが圧倒的に多いです。


はい、今日も最後はウェビナーのお知らせ。

Visiumを使った研究者の生の発表です! 2月25日(木)午後2時からです。
国立がん研究センター研究所の森裕太郎先生を演者に迎えて、がんサンプルを用いたVisium空間解析の実例紹介


今年、間違いなく、Visium空間解析は熱いです!

あ、もちろんシングルセルもね。😆

2021年2月12日金曜日

Visium空間解析、始めませんか?

 


Nature Method誌によって2020年のMethod of the Yearに選ばれた、Spatially Resolved Transcriptomics = 空間的に解析するトランスクリプトミクス

これを商品化したのが、10xのVisium 空間解析。ちょうど1年前にこのブログでも紹介していました。ここ

これは専用のスライドガラス上に組織切片を載せて、発現遺伝子(m RNA)を直接補足、どんな遺伝子が組織のどこで発現していたのかがわかる技術。

簡単に言うとこんな感じです。

10xのウェブサイト(日本語)はこちら

このVisiumの実験には、Chromiumは必要ありません!

ここ、意外と誤解している人が多いのでもう一度言います。Chromiumは必要ありません!


もうひとつ、昨年12月の実験医学別冊「クロマチン解析実践プロトコール」でも、最先端オミクス解析、の章でこのVisiumについて紹介しました!

あと、ちょっと恥ずかしいけれど、VisiumについてYouTubeでも説明しています。もう少し声を張れ、と自分に言いたい。。。

最後にウェビナーのお知らせ。

Visiumを使った研究者の生の発表です! 2月25日(木)午後2時からです。
国立がん研究センター研究所の森裕太郎先生を演者に迎えて、がんサンプルを用いたVisium空間解析の実例紹介

次のネタもVisiumで行きますね。



2021年2月11日木曜日

更新サボっていた分の取り返し

 気付いたら20年の9月から更新していませんでした。ちょうどその頃からTwitterにハマって(ハマるの遅すぎだろ!というツッコミはさておき)、やたらと生物系、医学系をフォローしてはツイートしていました。今更ながら、Twitterって便利で楽ですねー。

僕のフォロワーはほとんど、科学系の研究者、医者、学生、製薬系、同じ業界のヒト、だと思う。多分、変な人はいないと思う。

さて、昨年の9月から更新していなかったわけですが、その間に起こった出来事を並べます。普通のこと書いても面白く無いので私なりにまとめます。


10月:がん学会、がん免疫学会 現地とオンラインのハイブリッド開催: 

ランチョンセミナーは私が現地で司会をし、発表者の先生はリモートから参加、という未だかつて無いやり方。コロナ下ではこういう方法もありなんでしょうね。でも現地にいた感想を言うと、オンラインで登場する先生と現場とは微妙に空気が違うかも。

質疑応答の時に、オンライン発表の先生の顔が大画面スクリーンに写し出されるのですが、これはけっこう威圧感あるんですよ。先生、カメラからもう少し離れて、と。あと、現場の音響設備。マイクからの音は良くてもZoomから出て来る音が意外と聴きづらかったりしました。

オンライン同士のディスカッションは、座長がよっぽど気を使わないと仕切が難しいことも判明。突然の通信切れ時はどう間を繋ぐか、などなど。


11月:バーチャルユーザーミーティング開催:

ユーザーミーティング は毎年大きな会場を借りて、参加者を集めて、発表を聴いた後はみんなで懇親会、というのがこれまでの流れでした。本当は今年はホテルの会場を借りて、200人規模でやりたかった。でももちろんそれは無理。そこでバーチャルで行うことに。

このプランは8月頃から立てていて、APACのユーザーミーティングとJapanのをまとめてやろう!ということになり、みんなで準備を頑張った。初のオンライン開催だったのでうまくいくか、トラブルがあった場合どうするか、など心配事は多かったけれど、やってみたら案外大成功だった。

ユーザーミーティングに限らず、ウェビナーなどで先生に発表をお願いするにあたって僕が一番大切だと思っていることは、演者の先生に無理してもらわないこと。先生の研究の進み具合もあるし、発表できるタイミングというのもある。

だから断られることもある。でもたいていは、もう少し論文化の目処がたったら是非協力させてください、という前向きなことが多い。門前払いされることは無いからその点は精神的ショックは無いかな。断られたら素直に引いて、またお声かけしますねー、と言うのがベスト。

日頃からいい関係を築いておくことは大事ですよね。


12月:いろいろあって疲れる:

2020年の締めは外資は12月。一般的に、営業は今年の売り上げに忙殺。マーケは来年のプラン作りに忙殺。これはどの会社でも同じだろうな。気付いたらクリスマス、そして大晦日。

中国の人たちは大晦日まで働くからすごいなと思っていたら、俺たちはChinese New Year(旧暦の正月)で休むから、とのこと。つまり今日(2月11日)から1週間くらい。


1月:新製品発表:

今年は忙しくなりそうな予感しか無い。シングルセルとVisiumで多くの新製品が出ます。メインはこちら

CellPlex:シングルセルのマルチプレックスキット。細胞や核にタグを付けることでサンプルに印をつける。例:4サンプルそれぞれにタグを付けて同時に混ぜ、同じ流路に流すことができる。複数細胞がGEMに入ってしまってもタグを見ることでCellRangerが自動で除去してくれる

LT:低量のシングルセルキット。流路あたり数百〜1000細胞で流すことができる

Fixed RNAキット:PFA固定のRNAに対応したシングルセル用のキット。固定したサンプルからもシングルセル実験ができるようになる

Chromium X:今のChromium Controllerのハイスループット版機種。100万細胞をルーティン処理することを目指す

Visium FFPE:Visium Spatial 解析をFFPEサンプルの切片からでもできるようになるキット。今は新鮮組織切片からのみ

このうち、CellPlexはリリースしました。Visium FFPEは今年の前半にリリース予定。ちゃんとここでも紹介しますね