2019年1月31日木曜日

Spatial Transcriptomics てどんな技術?

https://spatialtranscriptomics.com/
昨年末、10x Genomicsの仲間になったSpatial Transcriptomics
スウェーデンのこの会社、遺伝子の発現量を組織の場所情報と共に得ることで、組織のどの場所でどんな遺伝子が多く発現していたのかを、見ることができるすごい技術を持っているのです。

in situ hybridization ってご存知でしょうか? 私は昔、脳神経化学のラボで実験テクニシャンをやっていたことがあるのですが、その時初めてマウスの脳の切片をin situ hybridization をやったデータを見ました。この技術は遺伝子(メッセンジャーRNA)に対応するプローブを使って、組織切片のどの場所に目的遺伝子が発現していたのかを見ていたわけですが、NGSが出てくるずっと前の当時は最先端の技術でした。その頃マイクロアレイが登場し始めました。

もしin situ hybridization があらかじめ絞り込んだ遺伝子の発現を見る技術だとしたら、Spatial Transcriptomicsの技術は遺伝子を絞り込まずにRNA-Seqを使って網羅的に遺伝子の発現を見ることができます。

ワークフローはWebsiteに説明があります。
イメージとしてはスライドガラスに小さな(直径100μm)ウェルがたくさんあって、そこに切片を固定します。ウェルの底にはウェルごとのバーコード配列がついたキャプチャーオリゴがあって、組織のmRNAはオリゴにくっつきます。
その後cDNA作製からのNGSライブラリ作製へ進み、NGSで読む。読んだ後にデータ解析して、どのウェルバーコード(組織の場所を示す)のどの遺伝子がどれくらい発現していたのか、がわかるわけです。

https://spatialtranscriptomics.com/workflow/

この技術とシングルセルでの応用について、Scienceに「WEBINAR | Mining the transcriptome using spatial transcriptomics: Comprehensive 2D or 3D visualization of all mRNAs in tissue sections」があります。
昨年の6月6日に行われたウェビナーです。超おすすめですよ!

ここから登録するとウェビナーが視聴できます。




今(2019年1月)、Spatial Transcriptomicsは10xの一部です。

このSpace情報とOMICSを繋げて、Spatialomics「スペーシャロミクス」っていうそうです。これから流行るかな?

2019年1月28日月曜日

Linked Readでメタゲノムアセンブリの話

先週は暖かい国にて会社のミーティングでした。野生のイグアナに初めて遭遇。


帰ってきて日本の寒さがこたえます〜。


さて、メタゲノムの分野では、培養できない細菌のゲノムを決めるのが、ひとつのテーマとしてあるそうです。昨年からLinked Readを使って複数のゲノムを同時に決めるというのがちょっとしたブームになっていたのですが、今回、そのお話のウェビナーがありますので紹介します。


うーーん、日本時間は深夜2時か、、、
その時間での参加をお願いはいたしません。私もおそらく無理。多分録画されるはずなのでレジストする価値はありますよ。
こちらから、Webinar Registrationをクリックしてくださいね!

最近はほとんどシングルセルの話しかしてませんので、たまにはLinked Readも良いのではないでしょうか。
ちなみにメタゲノムアセンブリにはSupernovaは使えません。別のThird Partyツールを使います。


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2019年1月27日日曜日

TotalSeq 細胞表面タンパクと細胞内遺伝子発現を同時計測(2)

BioLegend社のTotalSeqのベージ
前回、Total-Seqの新製品が出たとお伝えしました。
今までのがTotalSeq A、新製品はTotalSeq B、TotalSeq Cです。

AとBとCとで何が違うの?というと、対応する10x Genomicsのキットの種類が異なります。

  • A: 3'-Expression Ver.2 キット用(Ver.3 キットでも使用は可能)
  • B: 3'-Expression Ver.3 キット用(Ver.2 キットでは使用できない)
  • C: 5'-Expression (5’キット専用)
抗体についているキャプチャーオリゴ配列が、それぞれ10xのキットのキャプチャー配列に合わせて設計されているのです。

他の違いは、
  • BとCは、10x Genomicsがプロトコルと解析用のソフトウェアをサポートしている(Aはサポート対象外)
  • BとCは、2019年1月現在、製品ラインナップがAより少ない

ヨーロッパのベータ版ユーザの話によると、BとCはとても良いとのことです。(これ聞いて正直安心しました〜)
日本でもリリースされたことだし、年度末にかけて、どうですか?(笑)


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2019年1月26日土曜日

Total-Seq 細胞表面タンパクと細胞内遺伝子発現を同時計測(1)

皆さんCITE-Seqってご存じですか?
Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by sequencing
のことで、ざっくり言うと、
RNA-Seqと細胞表面タンパクの発現を同時に、シングルセルレベルで解析する技術
です。

CITE-Seqというそのままの名前のウェブサイトもありますね。
詳しく知りたい方はこちらの2つの論文が詳しいのでお勧めです。

Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells
Peterson et al. Nature Biotechnology volume 35, pages 936-939 (2017)
doi:10.1038/nbt.3973

Large-scale simultaneous measurement of epitopes and transcriptomes in single cells
-> Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells
Stoeckius et al. Nature Methods volume 14, pages 865-868 (2017)
doi:10.1038/nmeth.4380


細胞の表面タンパクを調べるならフローサイトメーターという便利な機械があるじゃないか、と思われるかたも多いと思います。フローサイトは、細胞マーカータンパクに対応する抗体を用いて細胞を染色し(その抗体には蛍光がついています)、レーザーで蛍光を光らせて、どんな抗体があったのかを測ります。
免疫細胞には色々な種類の細胞があり、それぞれ特徴的に発現している遺伝子があります。細胞特異的に発現している遺伝子=タンパク質が、細胞表面に現れるところを抗体を使って測っています。
ということは、対応する抗原=細胞表面タンパク=細胞マーカーを測るということになるので、間接的にどんな種類の細胞がサンプルに含まれていたのか、がわかるのです。

CITE-Seqも抗体を使って細胞を区別します。その上さらに、mRNAの情報もシングルセル単位で取ってくることができます。ではmRNAの情報を取る理由は何でしょう?

まあこれがシングルセル発現実験が行われる理由でもあるのですが、抗体を使った細胞分類方法は、

  1. 既知の高発現タンパクの抗体を使っている
  2. 一度に分類できる抗体の数は蛍光とレーザー波長とに依存する→たくさんの抗体を一度に分類しようとすると高価な装置が必要
  3. 未知の細胞の分類には対応できない(どんなタンパクが高発現しているかわからない細胞は分類できない)

という特徴があります

これを教師あり分類、と呼ぶならば、遺伝子発現情報を使って細胞種を分類する方法を教師なし分類と呼べるでしょう。遺伝子発現の情報(mRNAのカウント)を使えば未知の細胞群を見つけることだって可能です。

CITE-Seqは、これまでの抗体免疫染色で細胞分類を行なっていた方法と、シングルセルNGS発現解析を組み合わせたところが画期的です。抗体は使いますが、その抗体を測るときに蛍光を使いません。抗体にはその抗体特異的なオリゴ配列がついていて、そのオリゴ配列をNGSで読むことで抗体を認識するのです。

細胞単位で、

  1. どの抗体が細胞表面にあったのか、がNGSでわかる
  2. どんなmRNAが細胞内にあったのか、がNGSでわかる
  3. これらのデータは同じシングルセル由来だったのか違うシングルセル由来だったのか、バーコード配列で区別できる
  4. 分類に使う抗体の種類の上限は(理論的には)アンリミテッド
10xのChromiumはもちろんこのCITE–Seqに対応しています。昨年の春にBioLegend社がTotal-Seqという名前で製品化しました。もうすぐ1年経ちますね。そして最近新製品が出ました!



2019年1月10日木曜日

年明けから景気の良い話 JPモルガンヘルスケア

昨年末から風邪が治りません。さすがに、そろそろコートを着た方が良いのかな?なんて思ったり。症状は軽いから働けるのですがなんかいつもの9割くらいのパワーしか出ない。そこでこんなのを飲んで早く回復しようと

匂いはザ、朝鮮人参。味はシロップみたいな、まさかの甘口! このギャップがすごい!
栄養ドリンクなんでしょうかねえ。台北のファミマで見つけました。早く元気100%になりますように。


さて、この時期話題になっているのが毎年恒例、JPモルガンヘルスケアコンファレンス。話題のバイオテック企業が一堂に揃って、景気の良い話をする場所です。この時期に合わせて新製品を打ち出してくる会社も多いので注目されるわけです。
以前書いた記事はこちら


で、10xも初日にCEOが登場してどかーんと景気いい話をしました。

3500万ドルのシリーズD追加資金調達成功

シリーズDって何?という方はこのページが詳しいです。簡単にいうとある程度順調に成長を続けていてさらに今後成長が見込まれるようなベンチャーの状態、フェーズ、です。A、B、Cとだんだん大きくなっていくんですね。夢があるなあ。

ちなみに資金を投資している会社の中には、大手アメリカの銀行の他にも、我らがソフトバンクもあります。
なぜそんなに投資してもらえるのかと言えば、会社に元気があるからでしょう。CEOのSerge Saxonov はプレゼンの中で、「売上は2017年の7100万ドルから2018年は1億4600万ドルへと2倍になった。装置の数も500台から1000台以上に増え、4000人以上のアクティブユーザーを持つまでになった」と語ったそうです。


シングルセルの市場はまだ始まったばかり。より一層市場規模は大きくなると投資家が判断しているからこそ、お金が集まるんでしょうね。
特に最近買収したSpatial Transcriptomicsは、組織切片のサンプルを位置情報をそのまま持ったまま(細胞をバラバラにしないので)発現解析することができる技術を持っています。
これは別の記事にしますが、組織切片のあるエリアの細胞たちの遺伝子発現が、バーコード配列によって後でどのエリア由来か判別できれば、元々どこの組織エリアで発現していたのか後でわかるのです。
この技術はとても注目されていて、10xが持っているシングルセル解析を組み合わせれば、今までシングルセルではわからなかった場所の情報を得ることもできるのです。
AIやロボットなど新しい分野に積極的に投資しているソフトバンクグループが10xに投資しているのもわかる気がします。シングルセル解析にAIが加わったらどうなるんだろう。

JPモルガンの記事は先のGenomeWebの他にも、
VentureBeatFierceBiotechなどに記載があります。
10xのプレスリリースはこちらです。

さらに、10xのCEOのインタビュービデオもここから視聴できますので興味のある方はぜひどうぞ。







2019年1月6日日曜日

10x Genomicsの受託解析会社のまとめ(国内)

明けましておめでとうございます。
私は昨年の7月に今の会社に転職して、色々と慌ただしく過ぎていった半年間でしたが、今年はもっと(良い意味で)慌ただしくなるような予感がします。

昨年展示会ブースでお話しした中で、一番多かった質問は「どこかで受託解析しているところありますか?」というものでした。ですので本年最初の記事は受託会社のまとめ、にします。

これから紹介する会社さんは、10x Genomics社がオフィシャルにオススメしている会社、という訳ではありません。各社のウェブサイトや学会展示会にて、シングルセル解析またはLinked-Read解析をサービスとして紹介していた会社に私がコンタクトをとり、実際に話して得た(または前から知っていた)情報です。
と言っても、細かいサービス内容や価格は各社公にして欲しく無いと思いますので詳細はここでは書きません。価格やメニューなどはそれぞれコンタクトして聞いてくださいね。

以下、

  • 自社でChromiumとNGSシークエンサーを揃えて、サービスを展開している会社
  • データ解析受託を中心にサービスを揃えている会社

の順で紹介します。
その中での並びは単純に50音順、です。

実験からシークエンスまで自社で受託している会社


次にあげる2社は、ChromiumもNGSシークエンサーも自社で揃えています。学会展示会などでブースを見かけることも多いのではないでしょうか。NGSは塩基単位でのコストは下がっているとはいえ、それでも1回のランニングコストは結構しますので、シークエンスも外注の選択肢になるでしょう。

日本ジーンウィズ株式会社

RNAシーケンシングのメニューの中にシングルセル発現解析の紹介があります。右側のリンクをクリックするとPDFのチラシがダウンロードできるようです。発現解析以外にも、シングルセルのアプリケーションは色々と揃えていくようです。

タカラバイオ株式会社

ハプロタイプフェージング解析は、ヒトゲノムの構造解析のひとつで、ChromiumのLinked Readを使って行なっています。ウェブサイト上では、シングルセルではなくLinked-Readの受託実験解析しか見つけられませんでした。



上記の2社はChromiumを持っていて、NGSも自社でシークエンスできる会社です。お客さんがChromiumシステムを持っている場合、シングルセル用のNGSライブラリまでを自分で作成し、そのあとのNGSシークエンスを受託会社に外注する、ということもあり得るでしょう。10xのライブラリは少し特殊なので、ジーンウィズさんやタカラバイオさんのように自社でChromiumを持っているところにお願いする方が安心でしょうね。


ちなみに、NGS一般で言うと、実験は海外に外注し解析だけ国内で行う会社はあります。実験と解析全て海外外注で国内では窓口だけを請け負う会社もあります。正しいデータがちゃんと取れればどこで読んでも同じだと思いますが、気にされる方は最初に聞いておいた方が良いでしょう。
シングルセル解析はまだあまりメジャーではないのか、またはサンプル輸送の面で制限があるのか、海外のシングルセル実験受託の広告は見たことがありません(私が見たことが無いだけかもしれませんが)。

では、10x Genomicsのデータ解析をサービスとして行なっている会社にはどこがあるでしょうか?

データ解析を中心にサービスを提供している会社


まず初めに、この種のサービスは価格が付けにくいという性格があります。私も実は前々職で同じようなことをしていましたが、データ解析というのは実に千差万別で、お客さんのニーズが同じだったことはありません。しかし価格が無いと売れないわけで、ワークフローを一応作って価格を付けて売ったあと、無料オプション解析ということもありました。あるいは色々なオプションを付けてパッケージにして販売したことも。

なので一見、価格が高いと思うサービスがあったとしても、そのサービスがどこまでカバーしているのか(再解析の有無や、結果打ち合わせの回数、トレーニングの有無など)を聞いてみた方が良いと思います。

では、まずは自社のウェブサイトにシングルセル解析の記載がある会社から。

アメリエフ株式会社

トップページにシングルセル解析が紹介されています

シングルセル解析の専用ページもありました。

アメリエフさんではシングルセル初心者の方でも解析のイロハを取得できるように、トレーニングメニューも充実しているとのこと。解析ツールの開発も行なっています。

株式会社ジエンブル

福岡の会社で、NGS解析に特化した会社です。実験のコンサルティングから相談に乗ってくれるそうです。サービスのページはこちら。2月末までの注文に限りシングルセルRNA-Seqの解析キャンペーンをやっているみたいです(PDFチラシはこちらから


次に紹介する会社は、ウェブサイトでは「10xのデータ解析をしています」とはっきり書かれていないけれど実際はNGSデータ解析サービスの中に含まれていて、実績もあるところ。
もしウェブサイトに書かれていたらすみません。私がみつけられなかっただけです。
教えて頂けたら訂正します。

アクシオヘリックス株式会社

NGS現場の会のメーリスでも良く登場しますね。PictBioというのは受託解析サービスのことだそうです。シングルセル発現解析はNGS解析の一部に組み込まれています


株式会社ダイナコム

ここはSNPAlyzeなどのソフトウェアの販売で知っている方もいると思いますが、バイオインフォマティクスのサービスも充実しています。ウェブサイトには載っていませんが、Cell Ranger(10xが提供しているシングルセル解析のツール)を流すだけの単純解析も可能、その後のシングルセル系のインフォ解析も充実しているそうです。


その他

解析環境を提供している会社

データ解析は高スペックのサーバーが必要です。NGSデータを扱うわけですからね。
これはクラスターでは無い場合の、Cell Rangerの最低必要スペックです。
詳しくはこちら

シングルセル発現解析では、1セルあたり2万5000本〜5万本のリードが必要十分とされています。仮に1サンプルで1万セルを解析するとして、サンプルあたり2億5000万本〜5億本のリードが必要。HiSeq2000でも数レーンは必要でしょう。
NovaSeq6000のS1フローセルを使えば4サンプル程度は流せる計算になるでしょうか。いずれにしても相当数のリードをカウント、マッピングしないといけません。

株式会社ジーンベイ

シングルセル解析ではありませんが、Linked-Readを使ったデノボアセンブリは実績があるそうです。
面白いところでは解析パイプライン環境をクラウドに構築し、お客さんはそこで解析できるようにするというサービスです。シーケンスデータ解析クラウド、そのままわかりやすい名前ですね。
これはあくまで計算環境をクラウドで提供するというビジネスなので、お客さんはある程度データの解釈ができることが前提、のように思います。シングルセル用の環境はまだ(2018年12月現在)準備されていませんが、需要があれば載せることも検討とのことです。

株式会社 ナベ インターナショナル

計算環境を自前で用意したいというお客さん向けです。NGS解析専用サーバを組み立てて販売するビジネスモデルです。こちら
Takeruという名前はご存知の方も多いのではないでしょうか? 学会展示会でよくサーバーを展示しているところを見かけます。シングルセル発現解析専用サーバーの販売実績もあるそうです。
結果の解釈はお客さんにお任せしています。コマンドラインをガンガン使える玄人向けサービスと言えるでしょう。



いかがだったでしょうか。上記にあげた会社はどこも、10xのデータ解析をビジネスとして行なったことのある会社です。
最初に書いた通り、10x Genomics社がオフィシャルにお勧めしているわけではありません。私が個人的に聞いて集めた情報になります。なのでもしかしたら「うちでも10xデータ解析やってますよ」という会社があるかもしれませんね。追加していく方針です。

あと、今は10xデータ解析は経験無いけれど、多分絶対できるはず!という会社もいくつかありますので、そこはキャッチしていきますね。


では、2019年がみなさんにとって更なる飛躍の年になりますように!