前回、Chromiumの特徴をいくつかあげました。
- チップ1つに8サンプル(8チャンネル)流すことができる
- ゲノムDNAなら1ngからスタート(長いDNAにサイズセレクションしていること)
- 細胞なら100個から10,000個までを1チャンネルに流せる
- 細胞のサイズは結構フレキシブル 小さい細胞もOK
- ランした細胞の65%までをキャプチャーできる
- 3’発現解析のフローの場合ラン時間はたったの7分(ゲノムの場合は20分)
このうち、細胞のサイズについて少し付け足します。
細胞、と言ってもその大きさは様々ですよね。
小さいものだと血小板や赤血球は直径数ミクロン(2 μm - 8 μm)
線維芽細胞で10 μm - 15 μm
軟骨細胞で約20 μm
マクロファージはもっと大きくて20 μm - 80 μm
がん細胞株や、神経細胞、肝臓細胞なども大きい
Chromiumのシングルセル技術は、2 μm の細胞も、大きな細胞もキャプチャーすることができます(正確には、シングルセルRNA-Seqの場合は細胞の大きさに制限は無い(修正:とてつもなく大きい細胞の場合、流路を通り抜けることができません。その時は細胞ではなく、核を抽出して流す、というプロトコルがあります。それを使えば細胞の大きさに制限は無い、という意味でした)ですが、シングルセルCNV解析の場合、2018年8月の段階では30μmのサイズまではテスト済み)。
これは他社の技術と違う点です。
様々なサイズの細胞を取りこぼし無く解析できるということは、それだけ正確に組織中で何が起きているかを知ることになるわけです。
もうひとつ、Chromiumの特徴をあげるとすると、
ワークフローが完結する、ということ。
シングルセルを準備するのはユーザーの仕事ですが、そこから先の、
シングルセル内で発現しているRNAや、シングルセルの中に含まれるDNAに、10xのバーコードを付けて、イルミナシークエンサー用のライブラリを作る
まではChromiumがやってくれます。
ゲノムの場合は、ユーザーが高分子DNAを用意し、そこから先は、
DNAフラグメントに10xバーコードを付けて、これまたイルミナシークエンサー用のペアエンドライブラリを作る
までChromiumがやってくれます。
その先のシークエンスはHiSeqなどを使って行ってもらう必要がありますが、出てきたデータの解析は、フリーのLinuxソフトウェアがあります。
コマンドラインになりますが、それほど複雑ではありません。(と言っても全くコマンド使ったこと無い人には敷居は高いかもしれない。実際は、誰かバイオインフォに詳しい人に最初は助けてもらう方が良いと思います)
で、解析後のビューワーは充実しています(シングルセル解析の場合)。
ゲノムアセンブリは大抵、他の技術(例えばPacBioとかHi-Cとか)と組み合わせて解析すると思うので、10人いれば10通りの解析手段があると思うんです。
倍数体とかもバラバラですし。
でもシングルセルの場合は、今までバルク(細胞集団)で行ってきた発現解析やCNV解析などを、1細胞のレベルで解析するということなので、アイデア自体は突飛なことも無いのかなと思うのです。
ただ解析して出てくる結果の解釈が今までと考え方を変えないといけないでしょうね。
これまでバルクでやっていた発現解析は、細胞集団の発現の平均で、異なる組織やタイムポイントなどで比較していたと思います。
それが今度は細胞集団の中でいろんなパターンの発現を示す細胞を見ないといけない。
次元がグッと広がるんです。
付属するビューワーは良くできていて、解析結果をパッと見るフリーツールにしては完成度が高いです。
でもそこからバイオロジカルな答えを導き出すのは、ソフトウェアでは無くて研究者の仕事ですよね。
つくづく、研究者ってすごいなーと思いますよ。こういう業界にいると。
さて、シングルセルといえば、細胞壁のある植物細胞のシングルセル解析は難しいと一般に信じられているかもしれません。
ところが先日とあるユーザーさんが、植物細胞でシングルセル解析をしていることを知りました。
酵素で細胞壁を壊してProtoplastにして、Chromiumに流しているらしい。
まだそれ以上はオープンでありませんが、「結構いける」らしいので、そのうちここでも紹介しますね
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