最近暖かくなってきましたね。花粉が飛んでいます。私は数年前から年に数日くらい、花粉がひどい日 には花粉症の症状が出ます。目とくしゃみです。でも今年はもう3日症状が出てる。これから大丈夫かな。
さて、話はガラッと変わりますが、生体システムが正しく機能するためには、その構成要素である細胞の空間的な場所情報が重要です。発生段階において、胚の形態形成は正しい細胞種が正しい場所で分化するように厳密に制御されています。また成体では、組織内の細胞の空間的な構成は、臓器が適切に機能するために極めて重要です。
細胞の種類や細胞機能が空間的にどのように変化しているかは、その場所における遺伝子発現を定量することで測定することができます。また疾患バイオマーカー探索に代表されるように、未知の遺伝子が空間的でどのように発現しているかは、その遺伝子の機能を知る手がかりとなります。
ではどうやって遺伝子発現を解析するか? 一般的にその遺伝子がコードするタンパク質や転写産物を定量化することで行われます。かつては数遺伝子単位で解析するしか方法はありませんでしたが、現在はタンパク質と転写産物のいずれについてもハイスループットな解析手法が存在します。
さて、「空間解析・Spatial Analysis」と言っても様々です。これは実験医学の記事に詳しく説明があります。
ここでは、空間トランスクリプトームという技術を2つに分けています。組織切片全体を解析対象にする空間網羅タイプと、局所的な部分(Region of Interest:ROI)を解析対象とする局所深読みタイプに分けています。これらのタイプはさらに2つに分かれます。
最初の切片全体を見る空間網羅タイプにはまず、single molecular fluorescent in situ hybridization (smFISH) や、それを連続的に行うMERFISHなど「連続FISH法」があります。発現していた遺伝子のRNAに、蛍光プローブを連続的にハイブリダイズさせ、RNAを1分子単位で検出します。
もうひとつが「in situ キャプチャー法」。SlideSeqや10x GenomicsのVisiumがこれ。組織切片を特殊なスライドに載せて、発現していた遺伝子をそのままスライド上のキャプチャーオリゴに転送します。
続いて局所深読みタイプのうち物理的に組織を切り出してそこに含まれていた遺伝子・タンパクを解析するのが、20年以上前からメジャーなLaser Capture Microdissection (LCM)などです。最近では直径1ミリメートル以下スポットから、遺伝子やタンパク質の発現を蛍光で検出する光化学的な検出法もあります。Nanostring社のDigital Spatial Profiling(DSP)という手法がこれにあたります。
このように空間トランスクリプトームといっても様々で、どれも長所短所はあります。空間網羅タイプと局所深読みタイプは、そもそもコンセプト・使い方が違うと思いますね。10xは網羅タイプです。つまり局所を選んで深読みするということはそこにヒトの主観が入る・バイアスが入る。これよりも切片全体をできるだけ広く読んだほうがバイアスがかからない解析ができる、という考え方。
10xのVisiumがin situ キャプチャー法であるなら、もう一つの空間網羅タイプの連続FISH法は今年後半にリリース予定のXeniumになります。Xeniumについてはまた今度の機会に特集しますね。
ところで、最近Natureから素晴らしいレビューが出ました。
Moses et al. (2022) Museum of spatial transcriptomics. Nature Methods
このレビューは1987年にさかのぼって空間トランスクリプトームの歴史をひも解いています。1987年から「空間トランスクリプトーム(Spatial Transcriptome)」という言葉があったのは意外ですね。内容はとても濃いのでまとめることは難しいのですが、私も含め、この技術について勉強したい人はまず最初にお勧めします。私のプレゼンの中にこのレビューに書かれている内容がサラッと入ってきたら「ああ、こいつパクったな」と思ってください(冗談。パクりませんよ)。
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