2021年10月11日月曜日

BRAIN Initiative Cell Census Network—脳の神秘に迫る

 私がバイオ業界に入るきっかけとなった最初の仕事は、ラボテクニシャンでした。そのラボは東京大学大学院医学系研究科 分子神経生物学講座。脳神経の研究をしているラボです。

当時私はグルタミン酸受容体の遺伝子のある場所をノックアウトしたマウスを作るため、ターゲッティングベクターを作ったり、細胞培養したり、シーケンス(キャピラリー)したり、分子生物学のいろいろな実験手法を使っていたわけです。その時の直属のボスとは今でも交流があります。

さて、そんな私ですが脳の研究者ではないので詳しいことはわからないですが、なんだかすごい論文を目にしました。

Volume 598 Issue 7879, 7 October 2021

Brain census

4年前に設立されたBRAIN Initiative Cell Census Network (BICCN)のランドマーク的な成果の報告です。哺乳類の一次運動野のマルチモーダルな細胞センサスとアトラスを作成したそうです。

ここで用いられたのは最先端の分子生物学的ツール。シングルセルトランスクリプトーム、クロマチンアクセシビリティ、DNAメチローム、空間的に分解したトランスクリプトーム、形態学的および電気生理学的特性などの大規模な解析・・・。

このNature特集号には他にも関連論文があります

11本の論文で解析に使用された細胞は、シングルセルまたは核のトランスクリプトームで220万、クロマチン解析に100万以上。
これをするために相当な数の細胞数を準備し、さらに解析のためにトライアンドエラーを繰り返しただろうと想像できます。本当にすごい仕事です。

10xのscRNA-Seqも所々で使われているみたいですね。
脳の神経細胞は大きい(トゲトゲが長い)から流路に詰まってしまうこともあって、その場合は核を流す人も多いです。

このBICCNのウェビナー(October 27 10:00-11:30am Pacific Time)はこちら




2021年10月10日日曜日

第80回 日本癌学会学術総会

10月になり、朝晩は涼しくなってきましたね(東京)。今日は三日月

今年の癌学会は初日の9月30日が緊急事態宣言最終日、2日目の10月1日が台風で暴風雨、3日目になってようやく晴れるという、現地参加者にとってはなかなか厳しい日程でした。

私たちはブースも出して3日目にランチョンも行ったので通しで現地にいました。皆さんも知っているかもしれませんがパシフィコ横浜は、会議場と展示会場が少し離れています。移動するには一旦外に出ないといけないので(裏技はあるんだけど)、2日目は暴風雨のせいでほとんど展示会場に人は来ませんでした。

コロナ下での学会はほとんどがハイブリッド。その中で現地に来る研究者はどれくらいいるんだろう?って、始まるまでずーっと心配でしたが、会議場の方は意外とたくさんの人が現地参加していました。事務局発表では1,500名が現地参加、リモート参加が1,700名だったらしいです。

ほとんどの大きなセッションはオンデマンドもあるのでこれから参加する人も結構いるんでしょうかね。

今回は展示会場もかなりソーシャルディスタンス。ブースとブースの間が広々していましたが展示企業の数は少なかったですね。

そうです、今回Chromium X の実機を初めて公開しました!


向かって左側がX  右側が今までのController

今回の癌学会で特に思ったのは、シングルセルの発表が多かったこと。

私もツイッターで呟いていましたけれど、明らかにRNAシーケンスはバルクからシングルセルに移っているように感じました(もちろんバルクで十分な実験もあるけど)。今回Single Cellでタイトルを検索すると38の発表があったことがわかりました。実際はタイトルにはSingle Cellと書いていなくても手法としてシングルセルを使っていた発表もあったと思うから実数はそれよりはるかに多いと思います。(その38の発表はこちらにリストでまとめました)

特に以下の3つのセッションはシングルセルとマルチオミックス がメインテーマでした。おすすめです(全てオンデマンドあり)

  • CS2 一細胞解像度のがん生物学
  • IC10 がんのシングルセル・空間トランスクリプトーム解析
  • IS11 がん研究における一細胞解析
オンデマンドは10月18日から11月12日までだそうです。