2020年9月10日木曜日

9月はアルツハイマー月間 Cellの表紙に注目


 こちらはCellのVol.182, Issue 4の表紙です。この表紙の絵は、アルツハイマー病(AD)に伴うアミロイド斑が示す複雑な細胞間インターアクションを示しているそうです。

それを明らかにしたのがSpatial、空間的遺伝子発現解析とシングルセル。

Chen et. al., Spatial Transcriptomics and In Situ Sequencing to Study Alzheimer’s Disease(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.06.038)PMID 32702314

こちらハイライトを訳すと、

  • プラーク誘発遺伝子(PIG)のネットワークを空間トランスクリプトームで解明した
  • 空間トランスクリプトミクスによってADにおけるオリゴデンドロサイト遺伝子(OLIG)応答を同定した
  • マウスおよびヒトのin situ配列決定により、これらの応答がシングルセルレベルで確認された
  • PIGとOLIGの反応は異なる神経変性疾患においても保存されている
とのことです。

今月はアルツハイマー月間、9月21日は世界アルツハイマーデーだそうです。
高齢化がますます進む日本で、アルツハイマー病は人ごとでは無くなってきているでしょう。一般的に、認知症と混同されがちですが、認知症は病気ではなく状態のことです。ICD-10(国際疾病分類10版)による認知症の定義は、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶・思考・見当識・理解・計算・学習・言語・判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」だそうです。

アルツハイマー病は認知症を引き起こす脳の病気のひとつ、です。

平成28年度の厚生労働省白書によると、2014年の国内のアルツハイマー病の患者数は推計53万人。
他の原因の認知症と比べてアルツハイマー病の患者数は毎年増え続けているのがわかります。これは介護の問題とも直結するので、医療従事者だけでなく一般の人もこの病気のことを正しく理解する必要があると思いました。

さて、先のCellの論文です。有料論文なので中身は書けませんが、このような脳の研究にはSpatialな解析が必須になってくると思います。何の遺伝子がどこで発現していたのか、それが他の遺伝子とどう関係していたのか、などを空間的に理解することがますます必要とされるでしょうね。


2020年7月23日木曜日

コロナ期にできること ウェビナーで研究成果を発表しませんか?

新型コロナウイルス の感染拡大は、収まる兆しが見えませんね。今日は7月23日、東京は366人の新規感染者が確認されたとのこと。外は雨。何となく暗い気分になります。

サイエンス系の学会の大会も延期されたり、ウェブでの開催になったり、研究者は自身の研究成果を発表する場が無くなっているのではないか、と思ったりします。

学会(大会)は、たいてい2日以上の期間で行われ、研究者はそこで自分たちの成果を発表します。質疑応答の後でも活発な議論が行われ、ポスター会場では学生も発表の機会を与えられます。
私は企業の人間なので、基本は展示会場でのマーケティング活動なんですが、参加費払って会場に行ったりもします。ポスター会場で発表者に質問したりもします。

これができないのは正直寂しい。そう思っている人も多いのではないでしょうか。


企業がイベントを組めない、セミナーできない、展示会場で製品を紹介できない。
そうなるとウェビナーするしかない。

私が言うのもアレですが、企業からのウェビナー、って最近多すぎませんか? 皆さん疲れていませんか? 企業が製品を宣伝するウェビナーよりも、もっとアカデミックなもの、研究者が成果を発表するようなウェビナーの方が良くないですか?

もし、10xのChromiumを使って実験を行い、その結果を広く伝えたい、という研究者がいらっしゃいましたら私までお知らせください受託会社を使って実験をしたという方でももちろんかまいません。もちろん発表されるかたに費用はかかりません。

ウェビナーという形になりますが、できるだけインターアクティブな質疑応答ができるように努めます。共同研究などを呼びかける良い場にもなるかと思っています。
発表は日本語、英語、どちらでもウェルカムです。英語の場合は日本以外にも宣伝しますのでより多くの研究者がウェビナーに参加しますよ。

皆さんの研究成果をより広く宣伝できるチャンス! です。個人的には、ウェット・ドライいずれかの現場で実際に手を動かしている先生にお話して欲しいですね。苦労話とか、シングルセルではここまではわかるけれど、これ以上は違う技術が必要、とか。
10xを使っていれば、基本テーマは何でもOKです。10xの良いところ、改善して欲しいところ、を正直に話してもらえると嬉しい。
時期や時間はご相談の上、決めましょう。かなりフレキシブルです。

これは、10x Genomics が主催するオフィシャルなウェビナーでの招待講演、という位置付けです。必要であれば証明書もお作りします。
ウェビナーは最初に演者の紹介をして、演者の発表が30分くらいあって、その後10xのプレゼンが10分くらい(私が話します)で、最後に質疑応答という感じで考えています。

発表者のプレゼンは録画されますが、公開するか否かは相談して決めますので大丈夫です。

ちょっとやってみたいなーというかたは、是非私まで(大崎 研:ken.osaki[at]10xgenomics.com)お知らせくださいませ〜。

一緒にシングルセルの研究分野を盛り上げていきましょう!

2020年3月12日木曜日

COVID-19関連論文


Liao et al., "The landscape of lung bronchoalveolar immune cells in COVID-19 revealed by single-cell RNA sequencing"

感染者数が全世界で12万人を超え、ついにWHOからパンデミック宣言が出てしまったCOVID-19 

国内では検査態勢や予防対策を巡って専門家の間でも意見が分かれるなど、正しい情報を得るにはそれなりの知識を積極的に持つことも大切だと考えるこの頃です。


震源地の中国では先日、深圳市第三人民医院中国のチームが、Chromiumを使ったシングルセルレベルのVDJ解析とRNAシーケンス(scRNA-seq)を使って、3人の重症および3人の軽度のCOVID-19患者と、8人のこれまでに報告された健常肺コントロールからの、気管支肺胞の洗浄液(BALF)での肺の免疫微小環境を解析しました。これがmedRxivにのっています。
この大変な状況下でシングルセル解析をやって論文にもするなんて、凄いですね。このように中国の医学研究レベルはとても高いのですが、ニュースではあまり報道されない。


シングルセルレベルの免疫プロファイリングは、未知の病原体が侵入した時、人体の免疫反応による新しい抗体を検出する時に威力を発揮します。10xのVDJ解析は、T細胞のTCR遺伝子のcDNAの可変領域をペアで読むことができる。シングルセルで読むから遺伝子のペアの配列を決定できるのです。これについてはまた今度。

2020年3月10日火曜日

Visium 最初の論文とウェビナー(英語)


Maynard et al., Transcriptome-scale spatial gene expression in the human dorsolateral prefrontal cortex(doi: https://doi.org/10.1101/2020.02.28.969931

Spatial Transcriptomicsの論文は以前にもあったけれど、これが最初のVisiumの論文になるのでしょうか。これは、10xの社員も著者に載っていますが、Visiumでこんなことができる!ということがよーく分かる論文です。

Maynard et al
human dorsolateral prefrontal cortex(DLPFC:背外側前頭前野)のレイヤーは6層に分かれていて外側から内側に向かって、Layer 1、2、・・・6、とそして白質(White Matter)と分類されるそうです。この組織部分を切り出し、Visium実験を行い、各層ごとに遺伝子発現の特徴が見られるか、という実験です。

Maynard et al. Fig.1
Fig1のD、E、Fでは、3つの遺伝子の発現値がマップされています。ここでわかるように遺伝子によっては各層ごとに高発現、低発現の特徴がはっきり分かれているようです。

Maynard et al, Fig.4
各層ごとに特徴的に発現している遺伝子も検出できます。この図では、AQP4遺伝子が Layer 1で高発現(A)、HPCAL1遺伝子はLayer 2で高発現(C)していたことが示されています。
どの場所でどの遺伝子が発現していたのかという研究が、このVisiumの空間的遺伝子発現プラットフォームで可能になるのです!

これ、すごいですよね。今までに無い、次世代RNA-Seq

で、この論文の著者が今度、ウェビナーを行います。残念ながら日本時間では早朝3時半という微妙な時間ですが、朝に強い人はぜひご参加ください。
3月20日 午前3時30分から5時 (この日は休日ですね!)
こちらです






第1回 Visium Day オンラインフォーラム無事終了

今年は桜の開花も例年よりだいぶ早いらしいですね。とはいえ、新型コロナウイルスのせいで多くのイベントが自粛。学会も多くが中止になりました。なんだかとても寂しい3月になりそう。
外出自粛を「お願い」された小・中学生の子供が家に1ヶ月もいる!なんて、信じられない環境の中、私も最近ほとんどテレワークです。(とはいえずっと家にいるわけではありませんけれど)

イベントが自粛となっても私たちはそれに代わる方法を考えないといけないわけで、そうなるとセミナーをウェブでやるのが現実的になります。
最初、秋葉原UDXで行うのを予定していた「Visium Day」も、やっぱりこの時期なのでウェブでやることになりました。

2時間半のセミナーをオンラインでやってみた!

発表は5つ、招待講演の鈴木穣先生の発表を含む(鈴木先生、本当にどうもありがとうございました!)
質疑応答もできるだけできるようにして
間にコーヒーブレイク(という名のトイレ休憩)を設ける
発表するときはカメラをONにして、できるだけライブ感を出す

色々工夫して、途中で聞いている人が退屈しないように企画したのですが、まあ、2時間半はウェブセミナーとしては長いかな。実際そういう意見も多かった。普通の物理的なセミナーだと3時間でも「長すぎる」という人はあまりいないと思う。やっぱりウェブだともう少し短いセミナーが好まれるのか。

最後の私の発表のところで謎の雑音がコンタミしたのはごめんなさい。喋っていた私は気付きませんでした。練習したときは問題なかったのですが。今度は気をつけます。聞き取れなかった人は個別に連絡ください。

当日、私とスクラムの掛谷さんは 柏の特設スタジオから鈴木先生と一緒にお送りしました。
正直な印象:
これが無観客試合か・・・

オーディエンスの表情がわからないのは我々昭和世代には不安でしかない!
ラジオのパーソナリティーもこんな感じなんでしょうかね。でもあまりフランクに喋ったら怒られるだろうしね。

また、このような感じのウェブセミナーは今後もどんどん行う予定です。
お楽しみに!


2020年2月26日水曜日

AGBT ハイライト 10x Genomics

毎年この時期恒例のAGBTですが、私は行っていませんけれどもまるで行ったかのような報告をします(笑)。PacBioの時もそうでしたね

10x Genomics のプレゼンは月曜日の午後。多くの人が注目している中で行われました。
数々の新製品のアナウンスの他、自動ライブラリ作製装置「Chromium Connect」が出荷されたことも発表されました。


このページに詳しく書いています。
シングルセルの新製品とVisiumの新製品についての発表。
簡単にまとめると、まずシングルセルの新製品は、

  • Chromium Single CellのATACとGene Expressionを同じ細胞から同時に見れるようになる。これがやりたかった人は多いのではないでしょうか?
  • CellPlex:8チャネルチップを用いた時、1ランあたり最大16万細胞または96サンプル処理することができるようになる。実験のスケールに応じてサンプル数を調整することが可能です。CellPlex=細胞マルチプレックス
Visiumの新製品については
  • IHC(免疫組織化学)に対応:タンパク質と遺伝子発現を同じ組織上で同時に観察できるようになる
  • Feature Barcodeテクノロジーに対応:こちらは数千種類ものタンパク質の発現と遺伝子発現を同じ組織で同時に観察できるようになる
  • FFPE組織に対応:今は凍結切片のみ対応のVisium実験をFFPEサンプルからでもできるようになる
以上、リリース時期はまだ明らかにしていませんが、近い将来製品化されるものです。
いかがでしょうか。ワクワクしてきましたね。




2020年2月10日月曜日

第1回 Visium Day 開催のお知らせ!(オンライン方式に変わりました)

この記事は2月10日に上げたのですが、ご存知の通り新型コロナウイルス感染拡大に伴い、イベント・集会を開く環境では無くなりました。そこで、ウェブセミナーの形に変更しました。以下の記事も、2月10日に書いた内容を編集しています。編集箇所は黄色の字にしました。ウェブセミナーの登録サイトは同じURLです。
以前登録した方は自動的に案内メール(リンク付き)が送られていると思いますので再登録は不要です。


Visium Spatial Gene Expression、またの名をVisium 空間的遺伝子発現
この製品、前のブログでもその前にも何回かご紹介しましたね。組織切片をスライドガラス上に乗せて、組織の位置情報を保ったまま、全遺伝子発現を測定するという画期的技術です。
Spatial Transcriptomics、Spatialomicsとも言われていますね。「スペーシャロミクス」うん、いい響きだ。

今年話題になること間違いないVisiumの、アジア初のセミナー「Visium Day」を行います!(もしかしたら世界でも初か2番目かそれくらい)
日本で最初に実験をして結果を出された、東京大学の鈴木穣先生を特別講演にお招きしました。Visiumの実験はどんな感じで進むのか、データからどんな新しいことがわかるのか。ユーザーの生の声を聞けるまたと無いチャンスです。

また10xからは、この新技術を導入するときの実験ノウハウ、データ解析ソフトウェアのデモ、そして今後の Visium 開発の展望もご紹介します。実験ノウハウなどは基本的にはユーザーの方にしかお話ししない内容です。

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日時:2020年3月5日 午後1時から3時半
場所:ネットが繋がる場所ならどこでも On24というシステムを使います
レジストレーション:こちらから
アジェンダ:登録ページの一番下にダウンロードボタンがあり
参加無料
対象:Visiumに興味のある研究者の皆様 
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登録はお早めに! 


2020年1月27日月曜日

「Visium Spatial : 空間的遺伝子発現の疑問にお答えします」のブログの紹介

今年は暖冬で雪が少ないそうですね。暖冬の年は花粉が飛ぶ時期も早まるらしく、そうなると夏はどうなるんだろう?猛暑?水不足?


さて、前もここに書いたSpatialです。製品名はVisium Spatial(ビジィウム・スペーシャルと発音します)Gene Expressionです。マーケティング的にはVisium 空間的遺伝子発現と訳しています。
その新しい製品ですが今年、あちこちで話題になることは間違いない!と思っています。2020年の流行語大賞バイオ編というのがあればVisiumがノミネートされるかな。

10xのブログにて、そのVisiumのFAQが出ています。ブログはこちら


せっかくなので一部日本語に訳してみました。

イントロダクション


10x Genomicsでは、複雑な組織生物学に潜む空間的なダイナミクス、正常組織の発生や疾患病理学に影響する微小環境の細胞の働きを捉えることを可能にしています。10x GenomicsのVisium空間的遺伝子発現ソリューションを使用すれば、ターゲット遺伝子だけでなく全体のmRNAをインタクトな組織切片から得て、遺伝子発現情報を高解像度なH&E染色画像上に重ね合わせることができます。

このソリューションは組織切片作成、H&E染色、顕微鏡画像検出といったこれまでの病理学的な方法に、次世代シーケンス技術を統合して行います。そのため、10x Genomicsでは、scRNA-seqまたは組織解析の専門家のどちらにも有用な、トレーニングウェビナーを準備していますました。

Getting Started with the Visium Spatial Gene Expression Solution. Watch on-demand


Exploring New Frontiers - Analyzing and Visualizing Visium Gene Expression Data. Watch on-demand

ちなみに製品に関するウェブサイトは日本語でも用意しているので、こちらのほうが初心者はわかりやすいかもしれません。

組織準備に関するよくある質問

Visium Spatial Gene Expressionスライドに、異なる組織サンプルを同時にのせることはできますか?
はい、1つのスライドには4つのキャプチャーエリアがあり、4種類の異なるサンプルはそれぞれのエリアに乗せて測定することができます。但し、最適な透過処理時間をTissue Optimization(TO)スライドを使い、組織ごとにあらかじめ測っておく必要があります。


フォルマリン固定(FFPE)の組織は使用できますか?
OCTの新鮮な冷凍組織のみ確実にテストされています。10x GenomicsのR&DではFFPEでの方法を積極的に研究しています。


IHC染色した組織は使えますか?
現在、Visium空間的遺伝子発現のワークフローはH&E染色に最適化されています。 IHC染色からの方法も10xでは研究中です。


組織切片の厚さの最大値はありますか?
最適な切片の厚さは組織に依存します。例えば脂肪が多い組織の場合はより厚い切片が必要です。クオリティを保ちつつ組織に合った最小の厚さで切ることが大切です。 社内では5〜35μmでテストしたことがありますが、ほとんどの場合10 µmで切ります。

組織ごとの推奨する切片の厚さについてはこちら
凍結切片の詳細はこちら


Visium Spatial Gene Expressionスライド

4つのキャプチャーエリアには、約5000個のバーコードスポットがあり、各スポットには数百万本ものバーコード付きオリゴ配列が並んでいます。組織内のmRNAは、酵素による透過処理行なった後に放出され、バーコードオリゴに結合し、遺伝子発現情報として測定できるようになります。


1つのスポットが複数の細胞タイプをキャプチャーすることはありますか?
はい。組織の種類や組織内の細胞の大小密度によります。スポットの直径は50μm、隣り合うスポットの中心間の距離は100μmです。スポットあたり平均して1〜10個の細胞が捉えられると想定してください。ですからこれらの細胞は同じ細胞タイプで無い可能性もあります。私たちは、数個の「ミニバルク」細胞の平均遺伝子発現値を見ることになります。10xではこのスポットサイズをより小さくできないか研究を続けています。


同じスライドまたは異なるスライドの切片測定値に差はありますか?
難しい質問です。各組織は独特で元々差があるからです。同じスライド内または異なるスライド間で遺伝子発現データを一定に保つ最も有用なポイントは、組織のクオリティコントロールです。これは熟練した組織と切片準備の技術を伴います。

テクニカルリプリケートを作るのも良いでしょう。R&Dではマウス脳の4つの連続する切片を同じスライドにのせた実験を、違うスライドを使って6週間続けました。遺伝子発現のテクニカルリプリケート間でのR相関係数は0.99で、これは相関が高いことを示します。一般的にテクニカルリプリケートは実験結果の信頼性を高めます。


使わない箇所がある場合スライドは再利用できますか?

いいえ。使わないキャプチャーエリアがあったとしても、スライド使用は一度限りです。これはワークフローの中に、染色、リンス、乾燥のステップが他の使わないエリアのオリゴ配列にも影響し結果として全体的な感度を落としてしまうからです。


イメージングテストスライドの目的は何ですか?
Visiumアクセサリーキットに含まれるイメージングテストスライドには、2つの目的があります。ひとつはユーザーのイメージングシステムがVisiumに適合しているかを調べる目的、もうひとつは後の実験のためにイメージングプログラムをセットアップすることです。 詳細はこちら《 Imaging Guidelines Technical Note


データ解析について

データ解析のためにプログラミングやバイオインフォマティクスの経験は必要ですか?
最低限のバイオインフォマティクススキルがあればSpace Rangerを動かすことができます。Space RangerはLinuxマシンの上で動くので、Linuxの基本操作コマンドを知っておくことは必要です。しかしSpace Rangerのほとんどのコマンドは自動で動きます。Space Rangerで必要な設定ファイルやアルゴリズムはソフトウェア内に同梱されているので、2つのインプットファイルさえ指定すれば解析は実行できます。

Loupe BrowserはGUIで動くためプログラミングのスキルは必要ありません。しかし解析を進めるうちにある箇所の遺伝子発現データを選択して再解析したい場合もあるでしょう。そういった場合はRや他のスクリプトを覚えて実行することが必要かもしれません。


SeuratのようなRで動く他の解析ツールはありますか?
はい、あります。SeuratのほかにはSpanielGiottoというツールがあります。Space Rangerから出力されるマトリクスファイルは、Cell Ranger のFeature Barcodeマトリクスと同じフォーマットです。これはそのままSeuratに読みこませることが可能です。

これ以外にも10x Genomicsでは複数遺伝子やUMI、サンプル、クラスター等を同時に可視化するためのR resourcesも作っています。興味のある方はぜひお試しください。

こちらのブログもVisiumの空間的遺伝子発現解析について紹介しています。ご参照ください。



最後になりましたが、今年の3月5日木曜日、Visiumセミナーを東京で行います! ユーザーの先生のご発表と10xの製品担当、AGBTでの最新情報などなど、この技術の最新に触れたい人には見逃せないイベント。場所等正式に決まりましたらまたいろんなチャンネルでお知らせ致しますのでお楽しみに!
 

2020年1月14日火曜日

ヒト免疫細胞のシングルセル 完全長 cDNA シークエンス

免疫細胞のcDNAを完全長で、シングルセルで読んだ、と言う論文。
この話題は前にも触れましたがBioRxvに出ていましたので紹介します。

Highly Multiplexed Single-Cell Full-Length cDNA Sequencing of human immune cells with 10X Genomics and R2C2
リンクはこちら
このタイトルにあるR2D2、じゃなかった、R2C2とはなんのこっちゃ? 最初私もハテ?と思っていたのですがこれはThe Rolling Circle Amplification to Concatemeric Consensus
とのことだそうです。同じ著者のこちらの文献に詳しく書いています。
ONTのデータです。PacBioのCCS、HiFiとはちょっと違いますが目的は同じ。同じ場所を何回か読んで精度を高めるというものです。

この論文、目的は

  1. 免疫細胞の遺伝子発現をシングルセルレベルで検出し、
  2. その遺伝子(mRNA)を完全長で捉え、
  3. それによりアイソフォーム配列も区別し、
  4. T細胞レセプター・B細胞レセプターのもっとも変異の多い部位の配列をペアで決定する(免疫レパトア解析)
というもの。
完全長で捉えるというところがキーです。ショートリードで行うと1と4はできる。でも2と3は難しい。

彼らはPBMCを使っていて、およそ3000細胞からデータを得ています。
3’発現キットを使ってメッセンジャーをキャプチャーしています。<ー個人的にはここがちょっとびっくりした。10xのノーマルのプロトコルだと、免疫細胞のTCR・BCRレパトア解析をする場合、5’発現キットを使います。というのもTCR・BCRの変異領域は遺伝子の5’側に寄っているので、5’側を読まないといけないから。
とはいえ、良く考えたら、ショートリードで読むことを想定しているから3’側と5’側のライブラリ作製キットを使い分けているのですよ。
どちらも一度は完全長のcDNAを作り、その後ショートリード用にライブラリをカットしているので、もし完全長cDNAを全部読めるのであれば3’のキットでメッセンジャーをキャプチャーしても問題無い。
(この辺、解りづらかったらお知らせください)

シングルセル3’キットでメッセンジャーをキャプチャーして、一旦cDNAを作り(この辺のPCR伸長時間に工夫があるみたいです)一方はショートリード用、もう一方はR2C2用にしてライブラリを作製、シークエンスしています。

PBMCなのでT細胞、B細胞、単球が綺麗にクラスターに分かれています。

Volden et al., DOI 10.1101/2020.01.10.902361v1 より
この後のアイソフォーム解析は、ロングリードならでは。
B細胞、T細胞、単球に発現している遺伝子が、それぞれ異なるアイソフォームを持っていたことを彼らは論文中で示しています。

さらにレパトア解析、TCR・BCRの遺伝子のペア解析もロングリードで行なっています。
(これは正直、ショートリードでやってもできるよ、と言いたいけれど言いません)

こういう論文を読んでいると、PacBioのIso-Seqを思い出します。完全長cDNAのアイソフォーム解析です。これがシングルセルのレベルでできるようになったのか〜。感慨深い