2022年6月29日水曜日

シングルセル+空間解析の統合解析

今年は梅雨入りが6月、梅雨明けも6月! 何という早い梅雨でしょうね。そして猛暑!! 昭和生まれのオッサンは意外と暑さに弱い。これ共感力あるワードだと思います。

さてさて、そんなことより今年は空間解析が大ブームになる予感がしますのでそれをお伝えしますね。

Spatial Biology 「空間バイオロジー」という言葉は最近、よく聞きます。仕事上私は毎日必ずメールでこの言葉を見たり、書いたり、打ち合わせやセミナーで口にしたりしています。

ちょっと前の羊土社のウェビナーや、特集号でも話題になったので気になっている人も多いと思います。そうはいっても実は、人によって「空間バイオロジー」と聞いて持つイメージはだいぶ違うのが本当のところです。ここのサイトの図1を見てみましょう!

空間網羅タイプの空間トランスクリプトーム(遺伝子発現)が最近注目されている分野ですが、これはすなわち組織切片のどこで、どんな遺伝子がどれくらい発現していたのか、を網羅的に検出する技術です。

一番左に書かれている、FISHやseqFISH, MERFISH, という方法は、組織のその場所で発現していたmRNAにプローブをハイブリさせ、そのプローブに蛍光付きの別のプローブをさらにハイブリさせ、それをイメージング(蛍光)技術によって検出します。そのため一度に検出できる遺伝子の数に制限があります。しかしmRNA分子を一分子のレベルで検出することが可能なので、解像度は高いと言えます。

一方で、その隣の in situ キャプチャー法。これは10x のVisium や、Slide-seqに代表されるような、スライドの上にキャプチャーオリゴを並べ、各スポットに個別の目印オリゴをつけて、キャプチャーオリゴの上に落としたmRNAを場所の目印をつけた状態でシークエンスする。そして配列情報から元々の場所情報を紐つける方法です。

ちょっと何言っているか、、、 という人はこちらをどうぞ

それはそうと、Visiumをはじめ空間解析の最大の問題は、その情報が細胞レベルでは無いと言うこと。それは例えばVisiumの場合、直径が55μmのスポットの中で、その内部に含まれる細胞複数個のRNA-Seqを行うこと。そのスポットが5,000個、6.5mm x 6.5mmの正方形の中に並んでいる。6.5mm x 6.5mmの正方形のエリアに載せた組織切片のどこで、どんな遺伝子が発現していたのか、網羅的にわかることは画期的で素晴らしい。だが一方で、その遺伝子発現はあくまで直径55μmのスポットでのデータである。そのスポットに存在した複数の細胞が異なるタイプの細胞だった場合、スポット単位の遺伝子発現は複数細胞の発現データの平均になってしまうため、細胞個々の性質を見逃してしまうかもしれない。

そういう時に活躍するのが、Chromiumをはじめとするシングルセル解析である。組織(往々にして凍結切片組織)をバラバラにして、シングルセルまたは核のRNA Seqを行い、同じ凍結切片のVisiumデータと後でデータを統合する。このようなシングルセル+空間解析、という統合解析がある。

そこで最近Publishされたのが、こちらの論文

Bin Li et al.,  (2022) "Benchmarking spatial and single-cell transcriptomics integration methods for transcript distribution prediction and cell type deconvolution." Nature Methods. 19, 662. 


この論文では、今存在する16種類の「シングルセル+空間解析統合メソッド」を45のデータセットと32種類のシュミレーションデータで試してベンチマーキングをしている。正直私もこんなに手法があるなんて知らなかった。

フリーの論文では無いので詳しくは中身を読んで欲しいと思うが、ちょっとだけ言うと、

Discussionのところで彼らは "Tangram, gimVI, SpaGE outperformed other integration methods for predicting the spatial distribution of transcripts," と述べ、一方で、

"Cell2location, SpatialDWLS, RCTD were superior to other integration methods for cell type deconvolution of spots in histological sections."

と述べている。空間的な分布を予測するのに優れているツールと、スポット内の細胞タイプをディコンボリューションするのに優れているツールと、手法によってそれぞれ得意な分野があるようだ。つまり一見同じ目的を持ってシングルセルのデータを空間解析に統合しているツールにも、目的に応じて一長一短があるというのは面白い。

近い将来、10x のVisium HD やBGIのStereo-Seqなど、スポットの直径を小さくしたバージョンの技術が登場しても、シングルセルデータと統合する必要性は残るかもしれない。Spatial Transcriptomics はあくまでもスライド上に物理的に設置したスポットごとにRNA-Seqをするわけであり、スポットの大きさが小さくなってもそれが細胞のサイズと同じになるわけではないからだ。スポットサイズが細胞より小さくなることもある。そうなると新たなインテグレーションツールが必要になってくるかもしれない。

もしあなたがバイオインフォの専門家でツールを開発するのが大得意だとしたら、次にくる大きな波はこれです。シングルセルと配列空間解析、または画像からの空間解析、その全てを統合するツールが全世界的に必要とされる時代がまもなく来ます。←私の勝手な想像だけどね

NGSがそうであったように、まずテクノロジーが広まって、次に解析ソフトウェアがあちこちから生まれる。データの解析方法でさまざまな議論が起こり、やがてどこかのツール(解析手法)に落ち着く。

シングルセル+空間解析は今、テクノロジーが乱立している状態です。たくさんのデータをどう解析処理して行くべきか、決着するのにはもう少し時間がかかりそうな感じがします。


2022年3月23日水曜日

シングルセル2022年の新製品

 今日は東京も小雨、時々雪!? 昨日桜の開花宣言があったとは思えない寒さ・・・

先月Xperienceというウェブイベントがあって、今年発売される新製品の数々が発表されました。この様子は何と、日経バイオテクの記事にもなりまして


有料記事なので中身を書くことはできませんが、私たちの製品についてまとめてくださっていますので、著作権に触れない程度でご紹介しますね。

今年リリースするシングルセルの製品は以下の通り
  1. ATACの新しいバージョン、ATAC v2 
    • ピークコールの検出感度が今より高くなった
  2. シングルセル5’ CRISPR
    • シングルセル5’GEXのキットとともに使用できる
    • 今のガイドRNAをそのまま(3’CRISPRの場合はガイドRNAにキャプチャー配列をつけなければいけない)シングルセル実験に用いることができる
    • 細胞表面タンパク質発現やVDJ解析も同時に行うことができる
  3. 固定細胞からのシングルセル発現実験を可能にする、Fixed RNA
    • 細胞を回収した際に4%パラホルムアルデヒドで固定し、細胞をその時の状態で保存する
    • 固定した細胞を、Chromium Xにかける前に透過処理し、デザインされたプローブをハイブリすることによって遺伝子発現を検出する
    • 18,000のヒト遺伝子に対してプローブがデザインされ、発現の検出感度は高い
    • 細胞表面タンパク質発現も同時に解析できる
  4. シングル核実験を容易に行うために最適化された、核抽出キット
    • 凍結組織からおよそ1時間で綺麗な核を抽出するキット
    • 溶液で組織をバラバラにしスピンカラムで遠心、洗浄、など使いやすいキット
  5. Barcode Enabled Antigen Mapping (BEAM)
    • 抗体探索、T細胞スクリーンをシングルセルレベルで大規模に行う製品
    • 今年後半にリリース予定
1から4までは今年の中旬までにリリース予定。
中でも個人的に特に注目しているのは固定細胞からのシングルセル遺伝子発現、Fixed RNAです。やはり、細胞採取から時間が経つと遺伝子発現が変わってしまうケースがあります。そんな場合でもPFA固定してしまえば、実験までの間に発現が変わってしまうことを防ぐことができるかもしれません。
このFixed RNAキットは、Chromium XまたはiXに対応しています。

さてさて、これらの製品ですが、リリースまであともう少し待って下さい。
英語ウェビナーの後、ゴールデンウィークの後に日本語ウェビナー(Fixed RNAと核抽出キット)を行います。
そこで製品説明・ワークフロー・データなどをお見せしますね。

Visiumについても新製品ありますよ。それはまた次に

2022年3月20日日曜日

空間的トランスクリプトミクス まずはこれを読もう

最近暖かくなってきましたね。花粉が飛んでいます。私は数年前から年に数日くらい、花粉がひどい日 には花粉症の症状が出ます。目とくしゃみです。でも今年はもう3日症状が出てる。これから大丈夫かな。

さて、話はガラッと変わりますが、生体システムが正しく機能するためには、その構成要素である細胞の空間的な場所情報が重要です。発生段階において、胚の形態形成は正しい細胞種が正しい場所で分化するように厳密に制御されています。また成体では、組織内の細胞の空間的な構成は、臓器が適切に機能するために極めて重要です。

細胞の種類や細胞機能が空間的にどのように変化しているかは、その場所における遺伝子発現を定量することで測定することができます。また疾患バイオマーカー探索に代表されるように、未知の遺伝子が空間的でどのように発現しているかは、その遺伝子の機能を知る手がかりとなります。

ではどうやって遺伝子発現を解析するか? 一般的にその遺伝子がコードするタンパク質や転写産物を定量化することで行われます。かつては数遺伝子単位で解析するしか方法はありませんでしたが、現在はタンパク質と転写産物のいずれについてもハイスループットな解析手法が存在します。

さて、「空間解析・Spatial Analysis」と言っても様々です。これは実験医学の記事に詳しく説明があります。

実験医学 2021年9月号 Vol.39 No.14 空間トランスクリプトーム

ここでは、空間トランスクリプトームという技術を2つに分けています。組織切片全体を解析対象にする空間網羅タイプと、局所的な部分(Region of Interest:ROI)を解析対象とする局所深読みタイプに分けています。これらのタイプはさらに2つに分かれます。

最初の切片全体を見る空間網羅タイプにはまず、single molecular fluorescent in situ hybridization (smFISH) や、それを連続的に行うMERFISHなど「連続FISH法」があります。発現していた遺伝子のRNAに、蛍光プローブを連続的にハイブリダイズさせ、RNAを1分子単位で検出します。

もうひとつが「in situ キャプチャー法」。SlideSeqや10x GenomicsのVisiumがこれ。組織切片を特殊なスライドに載せて、発現していた遺伝子をそのままスライド上のキャプチャーオリゴに転送します。

続いて局所深読みタイプのうち物理的に組織を切り出してそこに含まれていた遺伝子・タンパクを解析するのが、20年以上前からメジャーなLaser Capture Microdissection (LCM)などです。最近では直径1ミリメートル以下スポットから、遺伝子やタンパク質の発現を蛍光で検出する光化学的な検出法もあります。Nanostring社のDigital Spatial Profiling(DSP)という手法がこれにあたります。

このように空間トランスクリプトームといっても様々で、どれも長所短所はあります。空間網羅タイプと局所深読みタイプは、そもそもコンセプト・使い方が違うと思いますね。10xは網羅タイプです。つまり局所を選んで深読みするということはそこにヒトの主観が入る・バイアスが入る。これよりも切片全体をできるだけ広く読んだほうがバイアスがかからない解析ができる、という考え方。

10xのVisiumがin situ キャプチャー法であるなら、もう一つの空間網羅タイプの連続FISH法は今年後半にリリース予定のXeniumになります。Xeniumについてはまた今度の機会に特集しますね。

ところで、最近Natureから素晴らしいレビューが出ました。

Moses et al. (2022) Museum of spatial transcriptomics. Nature Methods

このレビューは1987年にさかのぼって空間トランスクリプトームの歴史をひも解いています。1987年から「空間トランスクリプトーム(Spatial Transcriptome)」という言葉があったのは意外ですね。内容はとても濃いのでまとめることは難しいのですが、私も含め、この技術について勉強したい人はまず最初にお勧めします。私のプレゼンの中にこのレビューに書かれている内容がサラッと入ってきたら「ああ、こいつパクったな」と思ってください(冗談。パクりませんよ)。


2021年10月11日月曜日

BRAIN Initiative Cell Census Network—脳の神秘に迫る

 私がバイオ業界に入るきっかけとなった最初の仕事は、ラボテクニシャンでした。そのラボは東京大学大学院医学系研究科 分子神経生物学講座。脳神経の研究をしているラボです。

当時私はグルタミン酸受容体の遺伝子のある場所をノックアウトしたマウスを作るため、ターゲッティングベクターを作ったり、細胞培養したり、シーケンス(キャピラリー)したり、分子生物学のいろいろな実験手法を使っていたわけです。その時の直属のボスとは今でも交流があります。

さて、そんな私ですが脳の研究者ではないので詳しいことはわからないですが、なんだかすごい論文を目にしました。

Volume 598 Issue 7879, 7 October 2021

Brain census

4年前に設立されたBRAIN Initiative Cell Census Network (BICCN)のランドマーク的な成果の報告です。哺乳類の一次運動野のマルチモーダルな細胞センサスとアトラスを作成したそうです。

ここで用いられたのは最先端の分子生物学的ツール。シングルセルトランスクリプトーム、クロマチンアクセシビリティ、DNAメチローム、空間的に分解したトランスクリプトーム、形態学的および電気生理学的特性などの大規模な解析・・・。

このNature特集号には他にも関連論文があります

11本の論文で解析に使用された細胞は、シングルセルまたは核のトランスクリプトームで220万、クロマチン解析に100万以上。
これをするために相当な数の細胞数を準備し、さらに解析のためにトライアンドエラーを繰り返しただろうと想像できます。本当にすごい仕事です。

10xのscRNA-Seqも所々で使われているみたいですね。
脳の神経細胞は大きい(トゲトゲが長い)から流路に詰まってしまうこともあって、その場合は核を流す人も多いです。

このBICCNのウェビナー(October 27 10:00-11:30am Pacific Time)はこちら




2021年10月10日日曜日

第80回 日本癌学会学術総会

10月になり、朝晩は涼しくなってきましたね(東京)。今日は三日月

今年の癌学会は初日の9月30日が緊急事態宣言最終日、2日目の10月1日が台風で暴風雨、3日目になってようやく晴れるという、現地参加者にとってはなかなか厳しい日程でした。

私たちはブースも出して3日目にランチョンも行ったので通しで現地にいました。皆さんも知っているかもしれませんがパシフィコ横浜は、会議場と展示会場が少し離れています。移動するには一旦外に出ないといけないので(裏技はあるんだけど)、2日目は暴風雨のせいでほとんど展示会場に人は来ませんでした。

コロナ下での学会はほとんどがハイブリッド。その中で現地に来る研究者はどれくらいいるんだろう?って、始まるまでずーっと心配でしたが、会議場の方は意外とたくさんの人が現地参加していました。事務局発表では1,500名が現地参加、リモート参加が1,700名だったらしいです。

ほとんどの大きなセッションはオンデマンドもあるのでこれから参加する人も結構いるんでしょうかね。

今回は展示会場もかなりソーシャルディスタンス。ブースとブースの間が広々していましたが展示企業の数は少なかったですね。

そうです、今回Chromium X の実機を初めて公開しました!


向かって左側がX  右側が今までのController

今回の癌学会で特に思ったのは、シングルセルの発表が多かったこと。

私もツイッターで呟いていましたけれど、明らかにRNAシーケンスはバルクからシングルセルに移っているように感じました(もちろんバルクで十分な実験もあるけど)。今回Single Cellでタイトルを検索すると38の発表があったことがわかりました。実際はタイトルにはSingle Cellと書いていなくても手法としてシングルセルを使っていた発表もあったと思うから実数はそれよりはるかに多いと思います。(その38の発表はこちらにリストでまとめました)

特に以下の3つのセッションはシングルセルとマルチオミックス がメインテーマでした。おすすめです(全てオンデマンドあり)

  • CS2 一細胞解像度のがん生物学
  • IC10 がんのシングルセル・空間トランスクリプトーム解析
  • IS11 がん研究における一細胞解析
オンデマンドは10月18日から11月12日までだそうです。


2021年6月20日日曜日

Visium 最近の論文 2021年6月まで

 

Visiumの論文といえば日本からはこちらですね。乳癌のサンプルで空間解析をしています。鈴木先生、永澤先生には昨年の10x Genomicsユーザーミーティングでお話し頂きました!

鈴木先生には 20年3月のVisium Dayでもデータを少しお話し頂き、参加者の皆さんから多くの質問を頂いたことを覚えています。

続いてはこちら

ヒト背外側前頭前野の6層の解析(翻訳あってるかな)をVisiumで行った論文。こちらも最近大きな反響を得た論文です。BioConductor上で動くツールを開発してデータを公開しています(ここ)

お次はシングルセルとVisiumのデータを統合させるというバイオインフォ系の論文
計算式は私の理解の遥か上を行っているのですが、シングルセルのレベルでVisiumを行う現在可能な唯一の方法は、シングルセルRNA Seqと空間解析を別々に行ってコンピュテーショナルに統合することです。こちらの論文ではそれを行うツール-SPOTlightを紹介しています。
SPOTlightはここから利用可能だそうです。


さて、Visium、そして空間解析一般のトレンドを理解する私のオススメは、何と言ってもこちら、今年のNature Method Volume18,Issue 1です!
この特集号では空間解析を特集しています。これから空間解析を行いたい、という人には是非お勧めします。

さてこれまでヒト、マウスのVisiumばかりでしたが動物以外、植物の解析ももちろんあります。最近ではこちら
こちらもシングルセルと空間解析の統合解析を議論しています。

と、ここまで書いて、少しとりとめの無い記事になってしまったことを反省しています。もう少し今度はテーマごとに分けて紹介しますね。


2021年6月12日土曜日

Visium空間解析のすごさを一言でいうなら

 Visiumといえばここで何回も紹介していますが、スポットサイズの直径が55umの円が、約5,000個、一辺6.5mmの正方形に並んでいます。

隣り合うスポットの中心間の距離は100umなので、イメージとしてはこんな感じかな

細胞の大きさは様々。たいていの細胞はこの円の面積よりも小さいから、このスポットには複数の細胞が含まれる。だから今のVisiumはシングルセルの解像度では無い。とはいえ、このサイズのスポットが5,000個並び、それぞれで細胞s(複数形)の遺伝子発現解析ができるというのは画期的な技術である。

つまり、一言でいうと

組織上の何個かの細胞の全RNA−Seqを、最大5,000解析まとめて実験できる!

ひとつの組織切片で5,000のRNA-Seq実験を一度に行えるのはすごい。

RNA-Seqに加えて、そのうちCITE-Seqも行えるようになります。これはタンパク質の発現をオリゴつき抗体で測定する技術。
シングルセルだとTotalSeqという商品名がそれにあたります。これだと数十から数百のタンパク質発現もRNAと同時に検出できるようになる。

5,000のRNA-Seq実験をひとつの組織切片の上で同時に行えるのはVisiumだけ、かもしれません。
シーケンス後のデータ処理も無料のソフトウェアでコマンドラインを一発打つだけ。

そうです。さっきの丸にRNA-Seqデータをマッピングするのは簡単。
ビューワーで見るのも、簡単。
そこまでは、なんとか簡単

研究者の真の出番はそこからです。
データの解釈と、意味付けです
とはいってもまだ新しい技術なので、解析の参考になるはずの論文もそれほど多くないのが現実です。
次は、最近の論文を紹介します!




2021年6月7日月曜日

Visium 空間解析にFFPEが登場!

 前回から少し時間が経ってしまいましたね。まだまだ、東京は緊急事態宣言下で居酒屋は閉まったまま。すっかり健康的になってしまいました(これはいいことだけど)。これが6月20日まで続き、その後はワクチン接種、そしてオリンピックかあ。本当にやるのかなあ。

世の中不安なことが多い今日この頃ですが、さーて気持ちを切り替えて。


Visiumの空間解析にFFPE版が登場しました。FFPE−ホルマリン固定パラフィン包埋(さて、「包埋」とは何と読むでしょう? 答え:「ほうまい」僕は最初読めませんでした、、、)。これは生体組織の保存に良く使われている手法です。

ホルマリンの濃度(中性か酸性か)、作成にかける時間などの条件によってサンプルのクオリティは変わってくるそうです。サンプルに含まれるDNA・RNAの分子の分解も進んでしまうことがあります。また組織の構造がきちんと保存されるかどうか、これもFFPE作成条件によって大きく変わってくるそうです。

ゲノム診断に使う病理組織は手術検体から得るわけですが、こちらは日本病理学会が定めた「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」によってFFPEの作製方法などが定められています。

FFPEサンプルからRNA分子を測定して遺伝子発現量を測るには注意が必要です。そのままではRNAが分解されているからです。今までのVisium(新鮮凍結組織用)では、組織を透過処理し、mRNAのポリAをVisiumスライドガラス上のポリdT付きのキャプチャーオリゴで捉えていました。

ところがこの方法だと、分解されているmRNA はキャプチャーされない可能性がある。そしてNGSで読んでもマッピングされない可能性がある。

そこで、FFPE用のVisiumではポリAを捉えるのではなく、プローブキャプチャー法を用いました。具体的には、遺伝子の保存領域にプローブを2つ設計し、片方のプローブにはポリA配列がついている。この2つのプローブは隣り合うように設計されていて、ハイブリした後に2つは結合してひとつの長いプローブ配列になる。

その後Denatureして、透過処理をしてプローブ配列だけを組織からスライド上に落としてくる。プローブ配列についているポリA配列をスライド上のキャプチャーオリゴで捕捉する。という流れだけど文章で書いても伝わらないのはわかります。

そこで先月ウェビナーを行ったのでそのビデオをご覧ください。

このリンクから。最初に名前とメールアドレスなどの登録が少し必要です。

これは5月19日に行ったウェビナーの録画なのですが、最初の方はVisium一般の復習なので知っている人はスキップできるかな。プローブでのキャプチャー方法についてはウェビナービデオの18分後くらいから説明しています。

このウェビナーでは実験ワークフローの部分はさらっとしか話せませんでしたので、次はもっと詳しい話をします。次回のウェビナー、Visium空間的遺伝子発現 FFPEキットを始めよう!は6月23日(水)午後12時から。抽選で5名のかたにVisium特製Tシャツをプレゼントします!


製品シートはまだ英語版しかないですがここにあります(鋭意翻訳中!)


2021年2月16日火曜日

Visium空間解析始めませんか?(パート2)

 ここではもう一度、Visium空間解析のおさらいをしましょう!

Visiumスライドの説明「Visium空間的遺伝子 発現テクノロジー」カタログより

Visiumの遺伝子発現スライドにはキャプチャーエリアという、一辺は6.5mmからなる正方形のエリアが4つある。この中には5000個のスポットがあり、各スポットは直径55μmで、隣り合うスポットの中心間の距離は100μmである。

さて、この直径55μm(子供の髪の毛の太さがこのくらいらしい)のスポットに、数百万本のDNAオリゴが並んでいる。このオリゴはガラススライド側からリード1(後のシーケンスに使う)、空間バーコード、UMI、一番外側がPoly (dT)からなる。Poly (dT)オリゴがメッセンジャーRNAのPolyAを捉えることになるのだ。

正方形のキャプチャーエリアの上に、組織切片を載せて、酵素処理を行い、細胞に穴を開ける。すると、細胞内に含まれていたメッセンジャーRNAがスライドの上に落ちてくる。

落ちてきたmRNAは、先ほどのオリゴの先端のPoly (dT)によって捉えられ、その後逆転写によって cDNAが作られる。逆転写がmRNAの5’側に達したら追加でCCCオリゴを追加する、特別な酵素を用いていて、次に作られる2ndストランドの鎖はGGGがついたプライマーによって行われる。そうすると2ndストランドの鎖はUMI、空間バーコード、リード1の部分まで作られる。

ここでできるcDNAは、cDNAの全長+UMI+空間バーコード+リード1である。←ここ重要!

その後cDNAプラスアルファの配列は酵素処理されて断片化されて、NGSライブラリーが作られる。転写物の方はポリAに近い方がショートリードで読まれる。なのでこれは3’発現解析とも言える。バーコードの方はUMI+空間バーコード+リード1が読まれる。ここでバーコードとは何か?

UMI:スポット内のオリゴには異なる配列が設計されている。同じスポットには同じUMI配列は、無い。なので 、同じスポット内に限れば、発現遺伝子の転写産物には一種類のUMI配列がついていることになる。例えば後にPCRで増やす時、配列が増えやすい増えにくいに限らず、同じUMIを持っていれば元は同じ転写産物クローンだったということになる。発現値を測るのに適切な方法はUMIを数えれば良い。RPKMとかのノーマライズは必要ない。と言える。

空間バーコード:これはスポット内のオリゴには同じ配列が設計されている。しかし、異なるスポットには異なるユニークなオリゴが設計されている。つまり、空間バーコードを読むことによって、どのスポット由来の転写産物だったのかがわかる。キャプチャーエリアの正方形には5000のスポットがあるので、5000個の住所がある。この住所が書かれたのが空間バーコードだと思って良い。

UMIと空間バーコード:さて、スライドに落ちてきたmRNAは、 cDNAにされるときにこのUMIと空間バーコードが付けられる。この組み合わせを読むことで、どの遺伝子が(cDNA)、どれくらい(発現量・UMI)どこで(アドレス・空間バーコード)発現していたのか、がわかるようになるのだ! すごい!


とまあ、文章にすると結構わかりにくいかもしれない。実際言葉で言っても伝わらないこともある。図にしてプレゼンするのが一番なのかなー

さてさて、現在(2021年2月)は、新鮮組織切片からスタートする方法である。しかしこれもFFPEからスタートできるキットが今年出れば、実験の可能性も大きく広がると思う。

現在でも、メインはHE染色だが免疫蛍光染色にも対応しているので、遺伝子発現と同時にタンパク質発現の局在を捉えることができる。


ところで、「cDNAの全長+UMI+空間バーコード+リード1」ができると途中で書いたけど、これはつまり、読もうと思えばショートリードではなく、ロングリードで読めば、全長 cDNAも読めてしまうということ! 私が3年前まで全力で応援していたあのロングリードですよ。と言ってもまだショートリードがメインです。論文でもショートリードが圧倒的に多いです。


はい、今日も最後はウェビナーのお知らせ。

Visiumを使った研究者の生の発表です! 2月25日(木)午後2時からです。
国立がん研究センター研究所の森裕太郎先生を演者に迎えて、がんサンプルを用いたVisium空間解析の実例紹介


今年、間違いなく、Visium空間解析は熱いです!

あ、もちろんシングルセルもね。😆

2021年2月12日金曜日

Visium空間解析、始めませんか?

 


Nature Method誌によって2020年のMethod of the Yearに選ばれた、Spatially Resolved Transcriptomics = 空間的に解析するトランスクリプトミクス

これを商品化したのが、10xのVisium 空間解析。ちょうど1年前にこのブログでも紹介していました。ここ

これは専用のスライドガラス上に組織切片を載せて、発現遺伝子(m RNA)を直接補足、どんな遺伝子が組織のどこで発現していたのかがわかる技術。

簡単に言うとこんな感じです。

10xのウェブサイト(日本語)はこちら。

このVisiumの実験には、Chromiumは必要ありません!

ここ、意外と誤解している人が多いのでもう一度言います。Chromiumは必要ありません!


もうひとつ、昨年12月の実験医学別冊「クロマチン解析実践プロトコール」でも、最先端オミクス解析、の章でこのVisiumについて紹介しました!

あと、ちょっと恥ずかしいけれど、VisiumについてYouTubeでも説明しています。もう少し声を張れ、と自分に言いたい。。。

最後にウェビナーのお知らせ。

Visiumを使った研究者の生の発表です! 2月25日(木)午後2時からです。
国立がん研究センター研究所の森裕太郎先生を演者に迎えて、がんサンプルを用いたVisium空間解析の実例紹介

次のネタもVisiumで行きますね。



2021年2月11日木曜日

更新サボっていた分の取り返し

 気付いたら20年の9月から更新していませんでした。ちょうどその頃からTwitterにハマって(ハマるの遅すぎだろ!というツッコミはさておき)、やたらと生物系、医学系をフォローしてはツイートしていました。今更ながら、Twitterって便利で楽ですねー。

僕のフォロワーはほとんど、科学系の研究者、医者、学生、製薬系、同じ業界のヒト、だと思う。多分、変な人はいないと思う。

さて、昨年の9月から更新していなかったわけですが、その間に起こった出来事を並べます。普通のこと書いても面白く無いので私なりにまとめます。


10月:がん学会、がん免疫学会 現地とオンラインのハイブリッド開催: 

ランチョンセミナーは私が現地で司会をし、発表者の先生はリモートから参加、という未だかつて無いやり方。コロナ下ではこういう方法もありなんでしょうね。でも現地にいた感想を言うと、オンラインで登場する先生と現場とは微妙に空気が違うかも。

質疑応答の時に、オンライン発表の先生の顔が大画面スクリーンに写し出されるのですが、これはけっこう威圧感あるんですよ。先生、カメラからもう少し離れて、と。あと、現場の音響設備。マイクからの音は良くてもZoomから出て来る音が意外と聴きづらかったりしました。

オンライン同士のディスカッションは、座長がよっぽど気を使わないと仕切が難しいことも判明。突然の通信切れ時はどう間を繋ぐか、などなど。


11月:バーチャルユーザーミーティング開催:

ユーザーミーティング は毎年大きな会場を借りて、参加者を集めて、発表を聴いた後はみんなで懇親会、というのがこれまでの流れでした。本当は今年はホテルの会場を借りて、200人規模でやりたかった。でももちろんそれは無理。そこでバーチャルで行うことに。

このプランは8月頃から立てていて、APACのユーザーミーティングとJapanのをまとめてやろう!ということになり、みんなで準備を頑張った。初のオンライン開催だったのでうまくいくか、トラブルがあった場合どうするか、など心配事は多かったけれど、やってみたら案外大成功だった。

ユーザーミーティングに限らず、ウェビナーなどで先生に発表をお願いするにあたって僕が一番大切だと思っていることは、演者の先生に無理してもらわないこと。先生の研究の進み具合もあるし、発表できるタイミングというのもある。

だから断られることもある。でもたいていは、もう少し論文化の目処がたったら是非協力させてください、という前向きなことが多い。門前払いされることは無いからその点は精神的ショックは無いかな。断られたら素直に引いて、またお声かけしますねー、と言うのがベスト。

日頃からいい関係を築いておくことは大事ですよね。


12月:いろいろあって疲れる:

2020年の締めは外資は12月。一般的に、営業は今年の売り上げに忙殺。マーケは来年のプラン作りに忙殺。これはどの会社でも同じだろうな。気付いたらクリスマス、そして大晦日。

中国の人たちは大晦日まで働くからすごいなと思っていたら、俺たちはChinese New Year(旧暦の正月)で休むから、とのこと。つまり今日(2月11日)から1週間くらい。


1月:新製品発表:

今年は忙しくなりそうな予感しか無い。シングルセルとVisiumで多くの新製品が出ます。メインはこちら

CellPlex:シングルセルのマルチプレックスキット。細胞や核にタグを付けることでサンプルに印をつける。例:4サンプルそれぞれにタグを付けて同時に混ぜ、同じ流路に流すことができる。複数細胞がGEMに入ってしまってもタグを見ることでCellRangerが自動で除去してくれる

LT:低量のシングルセルキット。流路あたり数百〜1000細胞で流すことができる

Fixed RNAキット:PFA固定のRNAに対応したシングルセル用のキット。固定したサンプルからもシングルセル実験ができるようになる

Chromium X:今のChromium Controllerのハイスループット版機種。100万細胞をルーティン処理することを目指す

Visium FFPE:Visium Spatial 解析をFFPEサンプルの切片からでもできるようになるキット。今は新鮮組織切片からのみ

このうち、CellPlexはリリースしました。Visium FFPEは今年の前半にリリース予定。ちゃんとここでも紹介しますね

2020年9月10日木曜日

9月はアルツハイマー月間 Cellの表紙に注目


 こちらはCellのVol.182, Issue 4の表紙です。この表紙の絵は、アルツハイマー病(AD)に伴うアミロイド斑が示す複雑な細胞間インターアクションを示しているそうです。

それを明らかにしたのがSpatial、空間的遺伝子発現解析とシングルセル。

Chen et. al., Spatial Transcriptomics and In Situ Sequencing to Study Alzheimer’s Disease(https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.06.038)PMID 32702314

こちらハイライトを訳すと、

  • プラーク誘発遺伝子(PIG)のネットワークを空間トランスクリプトームで解明した
  • 空間トランスクリプトミクスによってADにおけるオリゴデンドロサイト遺伝子(OLIG)応答を同定した
  • マウスおよびヒトのin situ配列決定により、これらの応答がシングルセルレベルで確認された
  • PIGとOLIGの反応は異なる神経変性疾患においても保存されている
とのことです。

今月はアルツハイマー月間、9月21日は世界アルツハイマーデーだそうです。
高齢化がますます進む日本で、アルツハイマー病は人ごとでは無くなってきているでしょう。一般的に、認知症と混同されがちですが、認知症は病気ではなく状態のことです。ICD-10(国際疾病分類10版)による認知症の定義は、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶・思考・見当識・理解・計算・学習・言語・判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」だそうです。

アルツハイマー病は認知症を引き起こす脳の病気のひとつ、です。

平成28年度の厚生労働省白書によると、2014年の国内のアルツハイマー病の患者数は推計53万人。
他の原因の認知症と比べてアルツハイマー病の患者数は毎年増え続けているのがわかります。これは介護の問題とも直結するので、医療従事者だけでなく一般の人もこの病気のことを正しく理解する必要があると思いました。

さて、先のCellの論文です。有料論文なので中身は書けませんが、このような脳の研究にはSpatialな解析が必須になってくると思います。何の遺伝子がどこで発現していたのか、それが他の遺伝子とどう関係していたのか、などを空間的に理解することがますます必要とされるでしょうね。


2020年7月23日木曜日

コロナ期にできること ウェビナーで研究成果を発表しませんか?

新型コロナウイルス の感染拡大は、収まる兆しが見えませんね。今日は7月23日、東京は366人の新規感染者が確認されたとのこと。外は雨。何となく暗い気分になります。

サイエンス系の学会の大会も延期されたり、ウェブでの開催になったり、研究者は自身の研究成果を発表する場が無くなっているのではないか、と思ったりします。

学会(大会)は、たいてい2日以上の期間で行われ、研究者はそこで自分たちの成果を発表します。質疑応答の後でも活発な議論が行われ、ポスター会場では学生も発表の機会を与えられます。
私は企業の人間なので、基本は展示会場でのマーケティング活動なんですが、参加費払って会場に行ったりもします。ポスター会場で発表者に質問したりもします。

これができないのは正直寂しい。そう思っている人も多いのではないでしょうか。


企業がイベントを組めない、セミナーできない、展示会場で製品を紹介できない。
そうなるとウェビナーするしかない。

私が言うのもアレですが、企業からのウェビナー、って最近多すぎませんか? 皆さん疲れていませんか? 企業が製品を宣伝するウェビナーよりも、もっとアカデミックなもの、研究者が成果を発表するようなウェビナーの方が良くないですか?

もし、10xのChromiumを使って実験を行い、その結果を広く伝えたい、という研究者がいらっしゃいましたら私までお知らせください。受託会社を使って実験をしたという方でももちろんかまいません。もちろん発表されるかたに費用はかかりません。

ウェビナーという形になりますが、できるだけインターアクティブな質疑応答ができるように努めます。共同研究などを呼びかける良い場にもなるかと思っています。
発表は日本語、英語、どちらでもウェルカムです。英語の場合は日本以外にも宣伝しますのでより多くの研究者がウェビナーに参加しますよ。

皆さんの研究成果をより広く宣伝できるチャンス! です。個人的には、ウェット・ドライいずれかの現場で実際に手を動かしている先生にお話して欲しいですね。苦労話とか、シングルセルではここまではわかるけれど、これ以上は違う技術が必要、とか。
10xを使っていれば、基本テーマは何でもOKです。10xの良いところ、改善して欲しいところ、を正直に話してもらえると嬉しい。
時期や時間はご相談の上、決めましょう。かなりフレキシブルです。

これは、10x Genomics が主催するオフィシャルなウェビナーでの招待講演、という位置付けです。必要であれば証明書もお作りします。
ウェビナーは最初に演者の紹介をして、演者の発表が30分くらいあって、その後10xのプレゼンが10分くらい(私が話します)で、最後に質疑応答という感じで考えています。

発表者のプレゼンは録画されますが、公開するか否かは相談して決めますので大丈夫です。

ちょっとやってみたいなーというかたは、是非私まで(大崎 研:ken.osaki[at]10xgenomics.com)お知らせくださいませ〜。

一緒にシングルセルの研究分野を盛り上げていきましょう!

2020年3月12日木曜日

COVID-19関連論文


Liao et al., "The landscape of lung bronchoalveolar immune cells in COVID-19 revealed by single-cell RNA sequencing"

感染者数が全世界で12万人を超え、ついにWHOからパンデミック宣言が出てしまったCOVID-19 

国内では検査態勢や予防対策を巡って専門家の間でも意見が分かれるなど、正しい情報を得るにはそれなりの知識を積極的に持つことも大切だと考えるこの頃です。


震源地の中国では先日、深圳市第三人民医院中国のチームが、Chromiumを使ったシングルセルレベルのVDJ解析とRNAシーケンス(scRNA-seq)を使って、3人の重症および3人の軽度のCOVID-19患者と、8人のこれまでに報告された健常肺コントロールからの、気管支肺胞の洗浄液(BALF)での肺の免疫微小環境を解析しました。これがmedRxivにのっています。
この大変な状況下でシングルセル解析をやって論文にもするなんて、凄いですね。このように中国の医学研究レベルはとても高いのですが、ニュースではあまり報道されない。


シングルセルレベルの免疫プロファイリングは、未知の病原体が侵入した時、人体の免疫反応による新しい抗体を検出する時に威力を発揮します。10xのVDJ解析は、T細胞のTCR遺伝子のcDNAの可変領域をペアで読むことができる。シングルセルで読むから遺伝子のペアの配列を決定できるのです。これについてはまた今度。

2020年3月10日火曜日

Visium 最初の論文とウェビナー(英語)


Maynard et al., Transcriptome-scale spatial gene expression in the human dorsolateral prefrontal cortex(doi: https://doi.org/10.1101/2020.02.28.969931)

Spatial Transcriptomicsの論文は以前にもあったけれど、これが最初のVisiumの論文になるのでしょうか。これは、10xの社員も著者に載っていますが、Visiumでこんなことができる!ということがよーく分かる論文です。

Maynard et al
human dorsolateral prefrontal cortex(DLPFC:背外側前頭前野)のレイヤーは6層に分かれていて外側から内側に向かって、Layer 1、2、・・・6、とそして白質(White Matter)と分類されるそうです。この組織部分を切り出し、Visium実験を行い、各層ごとに遺伝子発現の特徴が見られるか、という実験です。

Maynard et al. Fig.1
Fig1のD、E、Fでは、3つの遺伝子の発現値がマップされています。ここでわかるように遺伝子によっては各層ごとに高発現、低発現の特徴がはっきり分かれているようです。

Maynard et al, Fig.4
各層ごとに特徴的に発現している遺伝子も検出できます。この図では、AQP4遺伝子が Layer 1で高発現(A)、HPCAL1遺伝子はLayer 2で高発現(C)していたことが示されています。
どの場所でどの遺伝子が発現していたのかという研究が、このVisiumの空間的遺伝子発現プラットフォームで可能になるのです!

これ、すごいですよね。今までに無い、次世代RNA-Seq

で、この論文の著者が今度、ウェビナーを行います。残念ながら日本時間では早朝3時半という微妙な時間ですが、朝に強い人はぜひご参加ください。
3月20日 午前3時30分から5時 (この日は休日ですね!)
こちらです






第1回 Visium Day オンラインフォーラム無事終了

今年は桜の開花も例年よりだいぶ早いらしいですね。とはいえ、新型コロナウイルスのせいで多くのイベントが自粛。学会も多くが中止になりました。なんだかとても寂しい3月になりそう。
外出自粛を「お願い」された小・中学生の子供が家に1ヶ月もいる!なんて、信じられない環境の中、私も最近ほとんどテレワークです。(とはいえずっと家にいるわけではありませんけれど)

イベントが自粛となっても私たちはそれに代わる方法を考えないといけないわけで、そうなるとセミナーをウェブでやるのが現実的になります。
最初、秋葉原UDXで行うのを予定していた「Visium Day」も、やっぱりこの時期なのでウェブでやることになりました。

2時間半のセミナーをオンラインでやってみた!

発表は5つ、招待講演の鈴木穣先生の発表を含む(鈴木先生、本当にどうもありがとうございました!)
質疑応答もできるだけできるようにして
間にコーヒーブレイク(という名のトイレ休憩)を設ける
発表するときはカメラをONにして、できるだけライブ感を出す

色々工夫して、途中で聞いている人が退屈しないように企画したのですが、まあ、2時間半はウェブセミナーとしては長いかな。実際そういう意見も多かった。普通の物理的なセミナーだと3時間でも「長すぎる」という人はあまりいないと思う。やっぱりウェブだともう少し短いセミナーが好まれるのか。

最後の私の発表のところで謎の雑音がコンタミしたのはごめんなさい。喋っていた私は気付きませんでした。練習したときは問題なかったのですが。今度は気をつけます。聞き取れなかった人は個別に連絡ください。

当日、私とスクラムの掛谷さんは 柏の特設スタジオから鈴木先生と一緒にお送りしました。
正直な印象:
これが無観客試合か・・・

オーディエンスの表情がわからないのは我々昭和世代には不安でしかない!
ラジオのパーソナリティーもこんな感じなんでしょうかね。でもあまりフランクに喋ったら怒られるだろうしね。

また、このような感じのウェブセミナーは今後もどんどん行う予定です。
お楽しみに!


2020年2月26日水曜日

AGBT ハイライト 10x Genomics

毎年この時期恒例のAGBTですが、私は行っていませんけれどもまるで行ったかのような報告をします(笑)。PacBioの時もそうでしたね

10x Genomics のプレゼンは月曜日の午後。多くの人が注目している中で行われました。
数々の新製品のアナウンスの他、自動ライブラリ作製装置「Chromium Connect」が出荷されたことも発表されました。


このページに詳しく書いています。
シングルセルの新製品とVisiumの新製品についての発表。
簡単にまとめると、まずシングルセルの新製品は、

  • Chromium Single CellのATACとGene Expressionを同じ細胞から同時に見れるようになる。これがやりたかった人は多いのではないでしょうか?
  • CellPlex:8チャネルチップを用いた時、1ランあたり最大16万細胞または96サンプル処理することができるようになる。実験のスケールに応じてサンプル数を調整することが可能です。CellPlex=細胞マルチプレックス
Visiumの新製品については
  • IHC(免疫組織化学)に対応:タンパク質と遺伝子発現を同じ組織上で同時に観察できるようになる
  • Feature Barcodeテクノロジーに対応:こちらは数千種類ものタンパク質の発現と遺伝子発現を同じ組織で同時に観察できるようになる
  • FFPE組織に対応:今は凍結切片のみ対応のVisium実験をFFPEサンプルからでもできるようになる
以上、リリース時期はまだ明らかにしていませんが、近い将来製品化されるものです。
いかがでしょうか。ワクワクしてきましたね。




2020年2月10日月曜日

第1回 Visium Day 開催のお知らせ!(オンライン方式に変わりました)

この記事は2月10日に上げたのですが、ご存知の通り新型コロナウイルス感染拡大に伴い、イベント・集会を開く環境では無くなりました。そこで、ウェブセミナーの形に変更しました。以下の記事も、2月10日に書いた内容を編集しています。編集箇所は黄色の字にしました。ウェブセミナーの登録サイトは同じURLです。
以前登録した方は自動的に案内メール(リンク付き)が送られていると思いますので再登録は不要です。


Visium Spatial Gene Expression、またの名をVisium 空間的遺伝子発現
この製品、前のブログでもその前にも何回かご紹介しましたね。組織切片をスライドガラス上に乗せて、組織の位置情報を保ったまま、全遺伝子発現を測定するという画期的技術です。
Spatial Transcriptomics、Spatialomicsとも言われていますね。「スペーシャロミクス」うん、いい響きだ。

今年話題になること間違いないVisiumの、アジア初のセミナー「Visium Day」を行います!(もしかしたら世界でも初か2番目かそれくらい)
日本で最初に実験をして結果を出された、東京大学の鈴木穣先生を特別講演にお招きしました。Visiumの実験はどんな感じで進むのか、データからどんな新しいことがわかるのか。ユーザーの生の声を聞けるまたと無いチャンスです。

また10xからは、この新技術を導入するときの実験ノウハウ、データ解析ソフトウェアのデモ、そして今後の Visium 開発の展望もご紹介します。実験ノウハウなどは基本的にはユーザーの方にしかお話ししない内容です。

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日時:2020年3月5日 午後1時から3時半
場所:ネットが繋がる場所ならどこでも On24というシステムを使います
レジストレーション:こちらから
アジェンダ:登録ページの一番下にダウンロードボタンがあり
参加無料
対象:Visiumに興味のある研究者の皆様 
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登録はお早めに! 


2020年1月27日月曜日

「Visium Spatial : 空間的遺伝子発現の疑問にお答えします」のブログの紹介

今年は暖冬で雪が少ないそうですね。暖冬の年は花粉が飛ぶ時期も早まるらしく、そうなると夏はどうなるんだろう?猛暑?水不足?


さて、前もここに書いたSpatialです。製品名はVisium Spatial(ビジィウム・スペーシャルと発音します)Gene Expressionです。マーケティング的にはVisium 空間的遺伝子発現と訳しています。
その新しい製品ですが今年、あちこちで話題になることは間違いない!と思っています。2020年の流行語大賞バイオ編というのがあればVisiumがノミネートされるかな。

10xのブログにて、そのVisiumのFAQが出ています。ブログはこちら


せっかくなので一部日本語に訳してみました。

イントロダクション


10x Genomicsでは、複雑な組織生物学に潜む空間的なダイナミクス、正常組織の発生や疾患病理学に影響する微小環境の細胞の働きを捉えることを可能にしています。10x GenomicsのVisium空間的遺伝子発現ソリューションを使用すれば、ターゲット遺伝子だけでなく全体のmRNAをインタクトな組織切片から得て、遺伝子発現情報を高解像度なH&E染色画像上に重ね合わせることができます。

このソリューションは組織切片作成、H&E染色、顕微鏡画像検出といったこれまでの病理学的な方法に、次世代シーケンス技術を統合して行います。そのため、10x Genomicsでは、scRNA-seqまたは組織解析の専門家のどちらにも有用な、トレーニングウェビナーを準備していますました。

Getting Started with the Visium Spatial Gene Expression Solution. Watch on-demand →


Exploring New Frontiers - Analyzing and Visualizing Visium Gene Expression Data. Watch on-demand →

ちなみに製品に関するウェブサイトは日本語でも用意しているので、こちらのほうが初心者はわかりやすいかもしれません。

組織準備に関するよくある質問

Visium Spatial Gene Expressionスライドに、異なる組織サンプルを同時にのせることはできますか?
はい、1つのスライドには4つのキャプチャーエリアがあり、4種類の異なるサンプルはそれぞれのエリアに乗せて測定することができます。但し、最適な透過処理時間をTissue Optimization(TO)スライドを使い、組織ごとにあらかじめ測っておく必要があります。


フォルマリン固定(FFPE)の組織は使用できますか?
OCTの新鮮な冷凍組織のみ確実にテストされています。10x GenomicsのR&DではFFPEでの方法を積極的に研究しています。


IHC染色した組織は使えますか?
現在、Visium空間的遺伝子発現のワークフローはH&E染色に最適化されています。 IHC染色からの方法も10xでは研究中です。


組織切片の厚さの最大値はありますか?
最適な切片の厚さは組織に依存します。例えば脂肪が多い組織の場合はより厚い切片が必要です。クオリティを保ちつつ組織に合った最小の厚さで切ることが大切です。 社内では5〜35μmでテストしたことがありますが、ほとんどの場合10 µmで切ります。

組織ごとの推奨する切片の厚さについてはこちら
凍結切片の詳細はこちら


Visium Spatial Gene Expressionスライド

4つのキャプチャーエリアには、約5000個のバーコードスポットがあり、各スポットには数百万本ものバーコード付きオリゴ配列が並んでいます。組織内のmRNAは、酵素による透過処理行なった後に放出され、バーコードオリゴに結合し、遺伝子発現情報として測定できるようになります。


1つのスポットが複数の細胞タイプをキャプチャーすることはありますか?
はい。組織の種類や組織内の細胞の大小密度によります。スポットの直径は50μm、隣り合うスポットの中心間の距離は100μmです。スポットあたり平均して1〜10個の細胞が捉えられると想定してください。ですからこれらの細胞は同じ細胞タイプで無い可能性もあります。私たちは、数個の「ミニバルク」細胞の平均遺伝子発現値を見ることになります。10xではこのスポットサイズをより小さくできないか研究を続けています。


同じスライドまたは異なるスライドの切片測定値に差はありますか?
難しい質問です。各組織は独特で元々差があるからです。同じスライド内または異なるスライド間で遺伝子発現データを一定に保つ最も有用なポイントは、組織のクオリティコントロールです。これは熟練した組織と切片準備の技術を伴います。

テクニカルリプリケートを作るのも良いでしょう。R&Dではマウス脳の4つの連続する切片を同じスライドにのせた実験を、違うスライドを使って6週間続けました。遺伝子発現のテクニカルリプリケート間でのR相関係数は0.99で、これは相関が高いことを示します。一般的にテクニカルリプリケートは実験結果の信頼性を高めます。


使わない箇所がある場合スライドは再利用できますか?

いいえ。使わないキャプチャーエリアがあったとしても、スライド使用は一度限りです。これはワークフローの中に、染色、リンス、乾燥のステップが他の使わないエリアのオリゴ配列にも影響し結果として全体的な感度を落としてしまうからです。


イメージングテストスライドの目的は何ですか?
Visiumアクセサリーキットに含まれるイメージングテストスライドには、2つの目的があります。ひとつはユーザーのイメージングシステムがVisiumに適合しているかを調べる目的、もうひとつは後の実験のためにイメージングプログラムをセットアップすることです。 詳細はこちら《 Imaging Guidelines Technical Note》


データ解析について

データ解析のためにプログラミングやバイオインフォマティクスの経験は必要ですか?
最低限のバイオインフォマティクススキルがあればSpace Rangerを動かすことができます。Space RangerはLinuxマシンの上で動くので、Linuxの基本操作コマンドを知っておくことは必要です。しかしSpace Rangerのほとんどのコマンドは自動で動きます。Space Rangerで必要な設定ファイルやアルゴリズムはソフトウェア内に同梱されているので、2つのインプットファイルさえ指定すれば解析は実行できます。

Loupe BrowserはGUIで動くためプログラミングのスキルは必要ありません。しかし解析を進めるうちにある箇所の遺伝子発現データを選択して再解析したい場合もあるでしょう。そういった場合はRや他のスクリプトを覚えて実行することが必要かもしれません。


SeuratのようなRで動く他の解析ツールはありますか?
はい、あります。SeuratのほかにはSpanielやGiottoというツールがあります。Space Rangerから出力されるマトリクスファイルは、Cell Ranger のFeature Barcodeマトリクスと同じフォーマットです。これはそのままSeuratに読みこませることが可能です。

これ以外にも10x Genomicsでは複数遺伝子やUMI、サンプル、クラスター等を同時に可視化するためのR resourcesも作っています。興味のある方はぜひお試しください。

こちらのブログもVisiumの空間的遺伝子発現解析について紹介しています。ご参照ください。



最後になりましたが、今年の3月5日木曜日、Visiumセミナーを東京で行います! ユーザーの先生のご発表と10xの製品担当、AGBTでの最新情報などなど、この技術の最新に触れたい人には見逃せないイベント。場所等正式に決まりましたらまたいろんなチャンネルでお知らせ致しますのでお楽しみに!
 

2020年1月14日火曜日

ヒト免疫細胞のシングルセル 完全長 cDNA シークエンス

免疫細胞のcDNAを完全長で、シングルセルで読んだ、と言う論文。
この話題は前にも触れましたがBioRxvに出ていましたので紹介します。

Highly Multiplexed Single-Cell Full-Length cDNA Sequencing of human immune cells with 10X Genomics and R2C2
リンクはこちら
このタイトルにあるR2D2、じゃなかった、R2C2とはなんのこっちゃ? 最初私もハテ?と思っていたのですがこれはThe Rolling Circle Amplification to Concatemeric Consensus
とのことだそうです。同じ著者のこちらの文献に詳しく書いています。
ONTのデータです。PacBioのCCS、HiFiとはちょっと違いますが目的は同じ。同じ場所を何回か読んで精度を高めるというものです。

この論文、目的は

  1. 免疫細胞の遺伝子発現をシングルセルレベルで検出し、
  2. その遺伝子(mRNA)を完全長で捉え、
  3. それによりアイソフォーム配列も区別し、
  4. T細胞レセプター・B細胞レセプターのもっとも変異の多い部位の配列をペアで決定する(免疫レパトア解析)
というもの。
完全長で捉えるというところがキーです。ショートリードで行うと1と4はできる。でも2と3は難しい。

彼らはPBMCを使っていて、およそ3000細胞からデータを得ています。
3’発現キットを使ってメッセンジャーをキャプチャーしています。<ー個人的にはここがちょっとびっくりした。10xのノーマルのプロトコルだと、免疫細胞のTCR・BCRレパトア解析をする場合、5’発現キットを使います。というのもTCR・BCRの変異領域は遺伝子の5’側に寄っているので、5’側を読まないといけないから。
とはいえ、良く考えたら、ショートリードで読むことを想定しているから3’側と5’側のライブラリ作製キットを使い分けているのですよ。
どちらも一度は完全長のcDNAを作り、その後ショートリード用にライブラリをカットしているので、もし完全長cDNAを全部読めるのであれば3’のキットでメッセンジャーをキャプチャーしても問題無い。
(この辺、解りづらかったらお知らせください)

シングルセル3’キットでメッセンジャーをキャプチャーして、一旦cDNAを作り(この辺のPCR伸長時間に工夫があるみたいです)一方はショートリード用、もう一方はR2C2用にしてライブラリを作製、シークエンスしています。

PBMCなのでT細胞、B細胞、単球が綺麗にクラスターに分かれています。

Volden et al., DOI 10.1101/2020.01.10.902361v1 より
この後のアイソフォーム解析は、ロングリードならでは。
B細胞、T細胞、単球に発現している遺伝子が、それぞれ異なるアイソフォームを持っていたことを彼らは論文中で示しています。

さらにレパトア解析、TCR・BCRの遺伝子のペア解析もロングリードで行なっています。
(これは正直、ショートリードでやってもできるよ、と言いたいけれど言いません)

こういう論文を読んでいると、PacBioのIso-Seqを思い出します。完全長cDNAのアイソフォーム解析です。これがシングルセルのレベルでできるようになったのか〜。感慨深い